興 味

3. 好敵手(第壱幕)

「朔耶」

視線を朔耶に移した十六夜は微笑んでいる様だった。

「次に退魔業を行う際は私も同伴する」
「え?」
「無邪気な雷が恐らく姿を現すだろう」
「…十六夜」
「興味が有る」
「鳴神に?」
「ほぅ、名は【鳴神】と申すのか」
「あ、あぁ…」

十六夜が鳴神に興味を示している。
そう思うだけで、朔耶は胸の奥がギリギリ痛んだ。
これは…【嫉妬】なのだろうか。

「どの程度の腕か見定めてやろうと思ってな」
「見定めて、どうかするのか?」
「歪な力の目覚め方をしている様であれば
 その力を封じ込めねばならぬかも知れん」
「えっ? それって…」
「まさか、鳴神の兄貴を殺すって事か?」
「殺害はせんよ。生憎あいにく、私にその様な趣味は無い」
「そ、そうですか…」

寿星は畏まってしまっている。
どうやらまだ十六夜の事が【怖い】らしい。

そして朔耶はこの時、十六夜が
【ワシ】ではなく【私】と言っている事に気付いた。
嘗て乾月だけに見せていた姿。
本来の彼の姿を朔耶は今、見ている事になる。
それがどう云う意味なのかも。

「十六夜…」
「ん?」
「…ありがとうな」
「礼には及ばん」

朔耶の感謝の意味が通じているのだろうか。
十六夜は優しい微笑を浮かべたまま
静かに玄関へと歩を進めた。

夕餉ゆうげはどうする?」
「今日は出前にでもしようかな?と…」
「そうか…」
「ん? どうした、十六夜?」
「親父殿や寿星は問題無いだろうが」
「あ…」
「十六夜の奴、店屋物が食えないんじゃなかったッスか?」
「そうだった。出前にしたら十六夜の飯が無い…」
「面倒な奴だなぁ…。
 好い加減、人並みに飯が食える様に成れよ」
「無茶を申すな、寿星」
「解った、出前は取る。但し寿星、お前と親父の分だ。
 十六夜の飯は俺が作る」
「【私とお主】の分だ、朔耶」
「あぁ、解ってるさ」

食に拘り等無い筈の十六夜が夕餉の心配をする事は無い。
朔耶と寿星の落ち込みを見て
なるべく平静を保とうとしたのだろうか。

(それが…十六夜の【強さ】なんだろうな)

前をゆっくりと歩いて行く十六夜の背中が
今迄以上に広く、大きく見える。
恐らくそれは錯覚では無い。
朔耶が求める漢の背中がこの大きさなのだろう。

* * * * * *

簡単に夕餉を済ませ、風呂に入る。
十六夜はいつも朔耶と一緒に入浴するのだが
今日は湯船の中で何かをじっと見つめている。

「何見てんの?」
「お主の背中じゃ」
「俺の?」
「あぁ。彫り物をな」
「見事だろ。本物だぜ」
「……」
「十六夜?」
「綺麗な肌じゃと云うのに…」

十六夜の声はとても哀しげだった。
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