視線を朔耶に移した十六夜は微笑んでいる様だった。
「次に退魔業を行う際は私も同伴する」
「え?」
「無邪気な雷が恐らく姿を現すだろう」
「…十六夜」
「興味が有る」
「鳴神に?」
「ほぅ、名は【鳴神】と申すのか」
「あ、あぁ…」
十六夜が鳴神に興味を示している。
そう思うだけで、朔耶は胸の奥がギリギリ痛んだ。
これは…【嫉妬】なのだろうか。
「どの程度の腕か見定めてやろうと思ってな」
「見定めて、どうかするのか?」
「歪な力の目覚め方をしている様であれば
その力を封じ込めねばならぬかも知れん」
「えっ? それって…」
「まさか、鳴神の兄貴を殺すって事か?」
「殺害はせんよ。
「そ、そうですか…」
寿星は畏まってしまっている。
どうやらまだ十六夜の事が【怖い】らしい。
そして朔耶はこの時、十六夜が
【ワシ】ではなく【私】と言っている事に気付いた。
嘗て乾月だけに見せていた姿。
本来の彼の姿を朔耶は今、見ている事になる。
それがどう云う意味なのかも。
「十六夜…」
「ん?」
「…ありがとうな」
「礼には及ばん」
朔耶の感謝の意味が通じているのだろうか。
十六夜は優しい微笑を浮かべたまま
静かに玄関へと歩を進めた。
「
「今日は出前にでもしようかな?と…」
「そうか…」
「ん? どうした、十六夜?」
「親父殿や寿星は問題無いだろうが」
「あ…」
「十六夜の奴、店屋物が食えないんじゃなかったッスか?」
「そうだった。出前にしたら十六夜の飯が無い…」
「面倒な奴だなぁ…。
好い加減、人並みに飯が食える様に成れよ」
「無茶を申すな、寿星」
「解った、出前は取る。但し寿星、お前と親父の分だ。
十六夜の飯は俺が作る」
「【私とお主】の分だ、朔耶」
「あぁ、解ってるさ」
食に拘り等無い筈の十六夜が夕餉の心配をする事は無い。
朔耶と寿星の落ち込みを見て
なるべく平静を保とうとしたのだろうか。
(それが…十六夜の【強さ】なんだろうな)
前をゆっくりと歩いて行く十六夜の背中が
今迄以上に広く、大きく見える。
恐らくそれは錯覚では無い。
朔耶が求める漢の背中がこの大きさなのだろう。
簡単に夕餉を済ませ、風呂に入る。
十六夜はいつも朔耶と一緒に入浴するのだが
今日は湯船の中で何かをじっと見つめている。
「何見てんの?」
「お主の背中じゃ」
「俺の?」
「あぁ。彫り物をな」
「見事だろ。本物だぜ」
「……」
「十六夜?」
「綺麗な肌じゃと云うのに…」
十六夜の声はとても哀しげだった。