随分と引切り無しに依頼が届く所を見ると
それなりに彼等の腕は評価されているのかも知れない。
宣言通り、十六夜もこの仕事には顔を出した。
浴衣では動き難いと判断した朔耶が
この日の為にと用意した作務衣を身に纏い
十六夜は周囲を見渡していた。
「どうした?」
「雷の気配を探っている」
「…鳴神か。来るのかな、
「さぁな」
あくまでも十六夜が興味を示したのは
鳴神の【能力】であり、人柄では無いのだろう。
朔耶にしてみればそれも気になる事であった。
しかし、まだ未熟な自分達にとっては
これから現れる敵の存在こそに注意を向けるべきだ。
朔耶は心の中でそう自分に叱責する。
「あれか?」
「あ…」
「又かよ…」
十六夜が指差す先には先日苦戦したマネキンの群れ。
やはり、誰かが意図的にマネキンを投棄し、動かしているのか。
「青龍 白虎 朱雀 玄武
ボソボソと呟きながら十六夜が素早く
空中で何かの形に指を走らせる。
余りに速い指の動きに
寿星は何が描かれたのか理解出来なかった。
「
「まぁな。念の為だ」
「……」
自分の身を守る為では無い。
瞬時に朔耶はそう気付いた。
自分を中心にして或る程度の広さの地域を
丸ごと結界で『包み込んだ』のだろう、と。
「鳴神対策…か?」
朔耶の言葉に十六夜は微笑みで肯定した。
(此処迄備えるって事は…。
まさか、十六夜が『この依頼に付き合う』って言った
本当の意味は……)
「来たぞ」
朔耶の思案を打ち消す様に
十六夜の声が意識を現実に呼び戻す。
「落ち着いて【波動の中心】を見極めろ」
「十六夜…」
「お主達ならば造作無い相手じゃ。必ず出来る」
「……」
「自信を持て。それが気を充実させ、技を磨く。
お主達の敵は正に『お主達の中』にこそ在る」
「…解った、十六夜。奴等は俺達で封じてやる」
「お主達の力、見せてもらうぞ」
十六夜は静かに微笑んでいる。
信じているからこそ、手は出さない。
彼の全身から、その思いが感じられる。
「やるぞ、寿星!」
「はいなっ!」
十六夜の結界の成果か、
普段以上に己の気が充実しているのを感じる。
寿星が放つ呪符に動きを抑えられたマネキンを見ても
先日の戦いとは格段に違った。
(中心だ。波動の中心を見極めろ)
その直後、朔耶の目は真っ黒に歪んだ楕円が
アスファルトに浮かび上がっているのを見付けた。