対 峙

3. 好敵手(第壱幕)

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軍茶利明王ぐんだりみょうおう 真言を唱え、黒点に向かって右腕を突き出す。
その拳からは炎と化した気の塊が弾丸の様に黒点を撃ち抜いた。

「空間の歪が…」
「どうやら、術師に攻撃効果が有った様じゃな」
「それじゃ兄ぃが…」
「うむ」

十六夜の言葉を裏付ける様に次々とマネキンがその場に倒れ出す。
それはまるで魂を奪われた人間の様で、不気味だった。

「はぁ…はぁ…。これで、この仕事は完了…だな…」
「お疲れ様ッス、兄ぃ!」

寿星はホッとした表情を浮かべて朔耶の元へ歩み寄ろうとした。
が、何故かそれを十六夜が止める。
寿星の腕を掴み、制止したのだ。

「な、何?」
「お主は此処にれ」
「え?」
「朔耶、動けるな?」
「あ…あぁ」
「寿星の元へ急げ」
「?」
「早ぅ!!」
「あ、あぁ」

尋常じゃない十六夜の様子に急かされ
息吐く間も無く寿星の元へ駆け出す
朔耶と擦れ違い様に十六夜が先程黒点の有った場所に立つ。
その頭上に落雷が起こったのは直後5秒も経たなかった。

「「十六夜っ?!」」

眩しい光と煙が舞い上がり
朔耶と寿星は十六夜を目で追う事が出来なくなった。

* * * * * *

「流石に、これしきで仕留められるとは思ってなかったがな」

雷を放ったのはやはり鳴神であった。
落とした地点にゆっくりと近付く。

「で、俺の力はどうだい? 稀有けうな才能の退魔師さんよ」
「基本は問題無さそうじゃが…ちと使い手に思慮が足りぬな」
「ほぅ…」
「結界が張れる物の怪の類にはこの程度の雷、通用せん」

煙を払いながら、涼しい顔で十六夜は堂々と鳴神の前に立つ。

「師匠から聞いたよ。貴様が凄ぇ能力の持ち主だって」
「…で?」
「是非、力比べをしたいと思ってね」
「その【御挨拶】がこの雷か」
「お気に召して頂けたかな?」
「…それにしては随分と品の無い挑戦状じゃのぅ」

十六夜はそう言うとフッと笑みを漏らした。

「何で勝負を付けたい?」
「話が解るじゃないか」
「早く片付いた方が互いに良かろう」
「何? 俺に勝つ気で居るのかよ?」
「無論じゃ。お主には負ける気がせん」
「……」

それ迄笑みを浮かべていた鳴神が急激に表情を険しくさせた。
絶対的な余裕、自信が揺らぐ瞬間。

「生き死にの勝負を選ぶか? それとも…」
「死に急ぎたいのか」
れるものならばな」
「…貴様っ」

十六夜は少しも怯む事無く容赦の無い挑発を続けている。
朔耶にはその言動に別の思惑が有る様に感じていた。

(時間稼ぎをしてるのか? としても、一体何故…?)
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