呪術勝負

3. 好敵手(第壱幕)

「その勝負、待った!」

凛と響く声にその場に居た全員の動きが止まる。
ゆっくりと姿を現したのは朔耶や寿星にとっては
予想だにしない人物であった。

「勝負とするからには【審判】が必要だろう?
 この勝負の審判、私が買って出よう」
「師匠…」
「師匠、どうして此処に?」
「気配を察知してな」

乾月はそのまま十六夜と鳴神に視線を移す。
怪訝そうな鳴神と違い十六夜の表情に変化は無い。

(そうか…。十六夜は師匠が来るのを待ってたんだ。
 あくまでもこれは【勝負】であり
 【殺し合い】ではないと鳴神に納得させる為に…)

無言のまま、鳴神は十六夜を睨み付ける。
睨まれても相変わらずの風体に
鳴神の苛立ちが益々高まっていく。

「異論は無いか?」
「私は問題無い。其方は?」
「…良いだろう」
「では、純粋に【術】勝負でどうだ?
 互いに術は自信が有るんだろう?」
「術のみ、だな」
「あぁ、武器の使用は禁ずる。文句は無いか? 鳴神よ」
「ふ…、武器なんざ必要無い。術だけでぶっ倒してやるさ」

既に殺気を放っている鳴神は
意外にもスンナリと勝負のルールに従った。
要するに、どんな方法であれ今直ぐに十六夜を倒したいのだろう。

「【妖刀遣ようとうつか】なのだな。
 別に獲物を使用しても私は一向に構わんのだぞ?」
「五月蝿ぇ…。今直ぐその減らず口、封じてやる」
「ふふ…。楽しませておくれ」

今迄見せた事の無い姿。
この様に相手を挑発し、小莫迦にする等
十六夜らしくないとすら思った。

「十六夜…」

この戦いが一体何を齎すのか。
朔耶は背中にジットリと生温い不気味な気配を感じていた。

* * * * * *

首を何度か鳴らし十六夜は両手を広げた。

「何処からでもどうぞ」

まるで子供の相手である。
あくまでも自分を愚弄する十六夜に対し
鳴神は先手必勝とばかりに術を発動する為の集中に入った。
十六夜はその際、妨害行為には出ず
一連の様子を見ているだけだった。

「雷よ来たれ! namaHナウマク samantaサマンダ - vajrANAMバザラダン hAMカン!!

帝釈天たいしゃくてん の真言。
鳴神の叫びに呼応し、稲光が真っ直ぐに十六夜を襲う。
逃げる事も無く、十六夜はそのまま
鳴神の放つ雷に直撃した…かに見えた。

「…ちっ」
「先程よりも威力が増したな。…惜しい。
 これだけの資質に恵まれながら
 下らぬ事に使うしかないとは」
「まだ言うか、貴様ッ!」
「ならば、次は此方が行こう。悪いが…手は抜かんぞ」
「望む所だ、この野郎っ!!」

あくまでも好戦的な鳴神に対し
十六夜も又 嘲笑で返すのだった。
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