一時の平和

4. 商売敵(第壱幕)

鳴神との決闘後 事件らしい事件も起こらず、
街は平和そのものだった。
依頼も入らず、朔耶と寿星は
普通の若者(?)らしい生活を過ごしていた。

「平和…ッスねぇ。表向きは」
「まぁな」
「兄ぃ、どうしたんスか?」
「いや、何でもねぇよ」
「本当に?」
「強いて言うなら」
「ん?」
「お前以外の奴と歩きたいなぁ~って」
「…失礼な」
「だっていつもお前なんだもん」
「じゃあデートでもするんスか?」
「…そうだな。相手が居ればな」
「誰と?」
「う~ん、取り敢えずは…十六夜かな?」
「何で其処で十六夜?」
「変か?」
「……(変だ)」
「誤解すんなよ。彼奴に街を見せてやりたいだけだ」
「…本当かなぁ~?」

【デート】の相手に同性を指名すると云う発想がそもそも想定外。
枠に嵌らない所が実にバイセクシャルな朔耶らしい。

「兄ぃ、ソッチの道に目覚めたのかと思った」
「あん?」
「…冗談ですけどね。
 そんなに気になるなら、今度デートに誘ったらどうッスかね?」
「十六夜をか」
「今の話の流れで他に誰が居るんですか?」
「そうだよな」

嫌味を込めて送った寿星の発言だったが
朔耶は意味深にニヤッと笑みを浮かべるだけであった。

(兄ぃ、マジでソッチに目覚めたかも…)

何故か自分の身の危険を感じ、
背中をゾクッと震わせる寿星であった。

* * * * * *

一方その頃。

「王手」
「…相変わらず容赦が無いな、十六夜」
「お主の手が甘過ぎる」
「これでも負け無しだったんだ。お前と打たなくなってからは」
「敗北の理由にならぬぞ、乾月」

朔耶の部屋を訪れた乾月は十六夜と将棋に興じていた。
これで7戦目だが、乾月は1勝も出来ず仕舞いだった。

「のぅ、乾月」
「ん?」
「お主は仕事もせずに何をしに来た」
「何って…将棋だ」
「私と将棋を打つだけで此処を訪れた訳では有るまい」
「…お前のそう云う洞察力には ほとほと感心するよ、十六夜」

徐に愛用の扇を取り出し乾月はそっと口の前に宛がう。

「【妖刀】の反応を感じないか」
「【妖刀】?」
「あぁ。今この街に3本の【妖刀】が存在しているのは
 既に確認出来ている」
「私の【虎徹こてつ】、お主の【兼元かねもと】、
 そして鳴神の【村正】…だな」
「御名答」
「それ以外の【妖刀】の気配…ねぇ」
「私は1本の気配を感じ取った」
「1本? 2本では無いのか?」
「…やはり、お前の検知力の方が上回っていたか。
 1本にしては力が大き過ぎると思った」
「私を試す様な物言いをするでない、乾月」

呆れ顔の十六夜に対し、乾月は苦笑で返した。
Home Index ←Back Next→