混 戦

4. 商売敵(第壱幕)

「あのままじゃ圧される。寿星、助太刀するぞ!」
「うっし! 了解ッス!!」

朔耶と寿星は頷き合うとそのまま【魔】に向かって駆け出した。

「近寄ってはなりません。危険です」
「悪いな、嬢ちゃん。
 寧ろヤバいのは俺達じゃなくてお前さんの相棒だぜ」
「此処は俺と兄ぃに任せて!」
「でも…」
「邪魔すんな! 男の手なんて、死んでも借りるかっ!!」
「死んでから後悔しても遅ぇんだよ!
 ガタガタ抜かしてねぇで目の前の敵に集中してろっ!!」

共同戦線どころでは無い。
援護に出ようとする朔耶や寿星の動きを
繊が妨害する事で更に形勢が怪しくなっていた。

神楽かぐら、結界を!」
「これで精一杯です…。流石にこう気が入り乱れては…」
「アンタ達が邪魔すっから!」
「人の所為にしてんじゃねぇよ、じゃじゃ馬!
 お前の敵はアッチだろうが!」

【魔】は暫く首を傾げて様子を伺っていたが
やがて戦いに飽きてしまったのか、
出て来たと同様に硝子の中に身を沈め消え去った。

「あ~ぁ…」
「もう、何やってんだよ! 折角狩れたってのに…」
「ざけんな!
 あんな下手糞な戦い方で無事に勝てるとでも思ってんのか?」
「何だとっ?!」
「神楽って云ったか、お前の相棒。
 無理な状態で結界張らせてどの位の時間で勝負付けるつもりだった?
 10分で蹴り付けようってんならこの仕事には向いてねぇ」
「ふん。アタシと神楽が組めばあんな奴、5分も…」
巫山戯ふざけてんじゃねぇぞ」
「な…っ?!」
「繊とか言ったな。
 死にたくなければ、そして相棒を殺したくなければ…
 もう少し冷静に戦局を見極めるこったな」
「……」
「行くぞ、寿星」
「あ、兄ぃ」
「寿星!」
「は、はい…」

朔耶は完全に頭にきているらしい。
こうなると素直に従った方が安全だ。
寿星は神楽と擦れ違い様に小さな声で「御免な」と告げると
足早に朔耶を追い駆けて行った。

「…繊」
「アイツ等なんかに解って堪るか。
 アタシにはアタシのやり方が有るんだ」
「でも…あの方の言い分も一理あります」
「神楽…」
「今日はもう休みましょう」
「…解った。神楽がそう言うなら……」
わたくし は大丈夫ですよ、繊。貴女が傍に居る限り」
「何時でも傍に居るよ、神楽。
 アタシはどんな事が遭っても神楽だけは守ってみせるから」
「……」

古風な少女、神楽はその時、哀しげな微笑を浮かべた。
繊の想いは何処か自分と擦れ違っている。
それが神楽には哀しかった。
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