繊と神楽

4. 商売敵(第壱幕)

風呂上りに缶ビールを飲みながら横目でTVニュースを見やる。
繊のその姿は一日の無事を意味し、
神楽にとっては唯一 安心出来る一時となっていた。

「神楽…」
「何ですか?」
「今日は、その…御免な」
「どうして?」
「アタシ、守れなかった。神楽の事……」
「繊は何時だって私を守ってくれています」
「でも…」
「そう云う時も有りますわ。
 私は何よりも、繊自身の御身を大切にして欲しいですし」
「アタシは大丈夫。怪我しようが誰も気にする奴は居ない」
「私が居ります」
「神楽…」
「繊が居なくなってしまっては私が路頭に迷ってしまいます。
 そうでしょう? 繊」
「…そうだね」
「大丈夫ですわ、繊。次の機会に仕留めましょう」
「…あぁ!」

優しく微笑んでくれる小柄な神楽を繊はそっと抱き締める。

「神楽の今、神楽の未来…。
 絶対にアタシが守るって決めたから。
 誓うよ、神楽。アタシが神楽を自由にしてみせる」
「繊…、ありがとう……」

誰にも邪魔されない二人だけの空間。
こうして触れ合えるのもこの場所に限られていた。

* * * * * *

「……?」

何やら奇妙な夢を見た。
朔耶は頭を掻きながら意見を聞きたいと顔を横に向ける。

「?!!」

朔耶の真横にあったのは
眠っている筈の十六夜の頭部ではなかった。
生身の片足だけがベッドの上に乗っていたのだ。

「い、十六夜っ?!」

慌ててベッドの下を見てみると
案の定、其処には頭部から床に落下したまま
熟睡している十六夜の姿が在った。
寝巻き用の浴衣も見事に着崩れており
褌一丁で寝ているのと変わりない。
普段の落ち着いた様相とは余りにも懸け離れた
まるで子供の様に酷い寝相の悪さである。

「毎度毎度…心臓に悪い寝相だな。
 おい、起きてくれよ十六夜。
 お前に話が有るんだってば」
「ん…? 何じゃ…?」
「取り敢えずベッドに上がってくれ。
 あぁ、浴衣はそのままでも良いから」
「? こうか?」
「其処はベッドじゃないでしょ…」

まだ寝惚けているらしい。
仕方が無いとばかりに朔耶は十六夜を抱き上げ、
そのままベッドに座らせた。

「起きた?」
「…何とはなく」
「大丈夫かよ…」
「で、話とは何だ?」
「あぁ、気になる夢を見たんだがな」
「夢?」
「そう。例の二人組の夢だと思うけど…
 何で俺、こんな夢を見たのかな?って」
「内容は覚えておるか」
「あぁ、ハッキリとな」

朔耶はそう言うと、覚えている限りの内容を
十六夜に丁寧に説明を始めた。
Home Index ←Back Next→