夢 見

4. 商売敵(第壱幕)

朔耶の話を聞いている最中
最初は胡坐だった十六夜が正座の姿勢をとり始めた。
どうも座りが安定しないのだろう。

「ふむ…成程な」
「どう思う?」
「今のあの二人の場景が夢と云う形でお主に伝わったのであろう」
「そんな事、可能なのか?」
「可能じゃ」
「マジで? 何だか覗きみたいだな」
「ん?」
「覗きって、知らないか」
「うむ、知らぬ」
「余り褒められた行為じゃないってだけ説明しておけば良いかな?」
「別にこれは誰かに褒めて欲しくて見る訳では有るまい」
「そりゃそうだけどさ…」

十六夜は見た目とは違って自称250歳以上の爺さんである。
現代の法律や条例を持ち出しても何処迄理解出来るか怪しい所だ。

「お主の今の夢はお主の力の一部じゃ」
「力の一部?」
「そう。夢と云う媒体が 時に未来を掲示し、場景を見せる。
 それはお主がどう動けば良いかの指針にもなる」
「占いに近いな、感覚的に」
「似た様な物じゃ。指針となる物が夢か星の流れの違いで」
「夢で未来を見る力…か」

枕元に置いていた式神の札がほんのりと輝いている様に見える。

「もしかしたら…」
「ん?」
「コイツが見せてくれたのかもな」

十六夜は何も言わなかった。頷きもしなかった。
だが、その視線は優しかった。

* * * * * *

白く輝く月を見つめながら神楽は一人物思いに耽る。

『繊の【陽炎丸】とは違う…別の力の結晶の波動を感じる…。
 とても、とても強い力。既に目覚めた物と、未だ目覚めぬ物。
 これは…【妖刀】の波動? それとも、誰かの霊力の波動?』

波動を逆探知して持ち主を探ろうとも考えたが
逆に自分自身が飲み込まれそうな恐怖に駆られ
神楽は小さく首を横に振った。

(私が臆病だから…いつも繊に不自由な思いをさせる。
 解っている筈なのに何も出来ないのは
 私がきっと繊に甘えてしまっているから…)

決められた未来に対し、一人では逆らえなかった。
繊が手を引いてくれたからこそ
今こうして、外の世界を知る事も出来た。

(繊…。貴女は私の恩人。そして私にはなくてはならない大切な人。
 【私】を望んでくれた唯一の人。
 そんな貴女の為に…私は何を成せば良いのでしょう…)

何時まで続くか判らないこの関係を少しでも長く伸ばせる様に。
一分、一秒でも長く繊と二人で生きていける為に。

(私に出来る事…。私にしか出来ない事…。
 早く、見出さなければ……)
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