第三勢力

4. 商売敵(第壱幕)


namaHナウマク samantaサマンダ - vajrANAMバザラダン hAMカン!!

不動明王ふどうみょうおう 真言と共に突き出される朔耶の拳。
其処から炎の渦が生まれ、式神の鳩を包む。
炎の衣を纏った鳩はそのまま敵に体当たりし
次々と【魔】を焼き払って行った。

「凄ぇ…。兄ぃ、何時の間にあんな技…?」
「迷いの無い炎…。あんな強い勢いの炎、初めて見ました…」

寿星と神楽は朔耶の技に驚きの声を上げる。
彼の炎の勢いは繊の持つ【陽炎丸】にも影響を及ぼした。
刀身に炎を宿したのである。
まるでそれは朔耶の力に呼応したかの様だった。

「迷うな! 討てっ!!」

初めて見る【陽炎丸】の姿に躊躇する繊だったが
朔耶の声に我を取り戻し、
向かって来る【魔】に対して思い切り刀を振り下ろした。

ザシュッ

いつもとは全く違う手応え。文字通り【一撃】で【魔】を葬り去る。
その威力に声も出ない繊であった。

「刀が重いだろ、繊」
「…驚いた。これが【陽炎丸】の力……」
「それと、【お前の力】だ」
「……アンタ」
「神楽を守るんだろ? お前自身が」
「…あぁ」
「なら強くなれ。技だけじゃねぇ、心もだ」
「…朔耶、だっけ?」
「あぁ」
「…ありがと」
「礼はこの戦いが終わってからだ」
「そうだったな」

繊はニコッと微笑み、再度 刀を構える。
一瞬見せた微笑に思わず見惚れる朔耶だったが
不意に見上げた空が急に曇り出したのを見て慌てて繊の腕を取る。

「きゃっ!」
「危ない、繊!」
「な、何す…っ?!」

結界を割って入る雷。こんな事をしてくるのはあの男しか居ない。
朔耶は思い切り舌打ちをし、或る方向を睨みつけた。

「だから危ねぇって言ってんだろうが!
 学習能力無ぇのかよ、鳴神ぃ!!」
「悪ぃ、悪ぃ。一寸巫山戯ふざけて撃ってみたんだが…怪我しなかった?」
「お前って奴は……っ」

やがて笑いながらゆっくりと姿を現す。
其処には朔耶の呼び掛け通り鳴神が【村正】を携えて立っていた。

「しっかしショボイ結界だねぇ~。簡単に割れてやんの」
「誰だよ、アンタ…。神楽を莫迦にするとアタシが許さねぇ!」
「玩具ぶら提げてるだけのお子ちゃまが何ですか~?」
「ざけんなぁーーーっ!!」
「待て、繊っ!!」

朔耶の静止も聞かずに飛び出す繊。
怒りに燃えたまま、炎を纏う【陽炎丸】で鳴神を襲う。
だが、当の鳴神は笑みを浮かべたまま
重心を少し下げただけだった。

「拙いっ!!」

朔耶が慌てて駆け出すが、時 既に遅し。
鞘に収まったままではあるが 鳴神の【村正】は見事に
繊の腹部をクリーンヒットしていた。
Home Index ←Back Next→