怒りの炎

4. 商売敵(第壱幕)

「繊っ!!」

朔耶は急いで駆け寄り、気を失った繊を抱き上げる。
寿星、神楽もそれに倣って駆け寄ってくる。
卒倒しているものの、呼吸自体は正常であり
生命に別状は無さそうだ。

「繊…、良かった」

ホッと胸を撫で下ろす神楽に反して朔耶は怒り心頭だった。

「いきなり現れて何しやがる!」
「だって邪魔だったんだもん」
「はぁ~っ?!」
「俺の【村正】が『暴れたい』って言い出すもんでね。
 素人さんには退場願いたい訳。OK?」
「OKな訳ねぇだろ! 大体、これは俺達の依頼だ!
 それにな、繊と神楽は俺達の仲間だ!
 仲間に怪我させてんじゃねぇよ、この阿呆っ!!」

朔耶は繊の落とした【陽炎丸】を手に取ろうとした。
しかし、掴んだ筈の柄の感触が無い。

「…あれ?」
「阿呆は貴様の方だろ、朔耶。
 【妖刀】はな、『契約者以外は手にする事が出来ない』んだよ。
 そんな事も知らんのか、阿呆」
「な…っ?!」
「そのお嬢ちゃんは契約出来たと云うのに
 未だに【妖刀】一つ持てないとは哀れだな、朔耶」
「じゃかましいわっ!!」

【妖刀】を持っていないとはいえ、朔耶の気は充実している。
彼の怒りに呼応したのだろう。
不動明王の力を宿した式神の鳩も【魔】を全て焼き払ってから、
勢いそのままに今度は鳴神目掛けて飛び掛る。

「兄ぃ! アイツ、借り物でしょっ?!」

寿星が慌てて止めようとしたが
朔耶の下した命令に鳩は忠実に従っている。

「ふん!」

鳴神の方も簡単に斬り落とせると踏んだのだろう。
躊躇する事無く真っ直ぐ【村正】を振り下ろす。
だが寸での所で鳩は急旋回し
その翼で鳴神の右腕を打ったのである。
予想外の衝撃に鳴神は思わず【村正】を落とした。

「凄ぇ…。凄ぇよ、あの鳩…」
「持ち主の方の能力の高さが伺えます。
 人に貸し与えてもあれ程迄に飛べるなんて…」
「……」
「勝負有ったな、鳴神」

朔耶の元に戻って来た鳩は
彼の手に止まりながら上機嫌に喉を鳴らす。

「その式神…」
「賢いだろ。十六夜の式神だ」
「ふん…、又 十六夜か。
 まぁ、奴の式神にと云う事なら若干の諦めも付くか」
「何だと?」
「貴様が俺を倒したんじゃねぇ。
 十六夜の力が俺を凌駕しただけ。只 それだけの事だ」
「負け惜しみを言うなよな」
「負け惜しみなもんか。
 【妖刀】に認められてもいない貴様が
 己の力だけで俺を越えた訳じゃねぇのに偉そうな顔してやがる。
 滑稽だぜ、今の貴様の面」
「それがいつか、お前の表情になるんだぜ」
「へぇ~。なかなか面白いアメリカンジョークじゃん」
「マジで言ってんだよ」

嘲笑する鳴神に対し、一歩も怯まない朔耶。
二人の間には不穏な空気が流れていた。
Home Index ←Back Next→