傍観者

4. 商売敵(第壱幕)

「どう思う、あれ?」
「…乾月、ちゃんと教育したのか?」
「それを言われると…。
 流石に性格迄は私の範疇じゃないよ」

遠目から戦いぶりを見学していた十六夜と乾月は
鳴神の乱入騒ぎに頭を痛めていた。

「懲りてないのぅ、鳴神の奴」
「あれでもお前との戦いは
 結構堪えてるみたいだったけどね」
「その反動がこの騒ぎか?」
「…かも」
「迷惑千万じゃな」
「全くだ…」

この騒ぎも鳴神がその場から去る事で一応の決着は着いたらしい。
気を失った繊を朔耶が背負い、4人もその場を後にする様だ。

「【陽炎丸】…か。これで4本の妖刀が揃った」
「……乾月?」
「後、1本…。一体、何だと思う?」
「さてね」
「…正体を掴んでるんじゃないのか? 十六夜」

乾月は更に追求するが、十六夜は答えない。
何も言わず空を見上げるだけだった。

「カンニングは認めてくれないか…」
「ん?」
「相変わらず、横文字は苦手の様だな」
「それを解っているなら何故に使う?」
「今の世の中、横文字が氾濫してるんだよ。
 使い熟せないと時代遅れになるよ?」
「既に時代遅れの人間に何を言うか」
「…そりゃそうか」
「戻るぞ、乾月」
「はいはい」

帰宅の途に就きながら
乾月はずっと十六夜の様子を伺っていた。
全く表情を変えない辺り、
十六夜も乾月の行動を周知しているのだろう。

(相変わらずボロを出しそうにも無いな。
 こりゃ自力で調べろって事か。
 流石は我が師範、厳しいお方だ…)

* * * * * *

気が付いた時には自分の部屋。ベッドの中。
目を見開くと、直ぐ其処には神楽が居た。

「か、ぐら…?」
「良かった、繊…。心配しました……」

腹部が酷く重く、痛い。
体を動かす事はままならず、繊は視線だけを動かした。

「朔耶さんと寿星さんはお帰りになりました」
「あの2人がアタシを…?」
「はい。御身大切に、と」
「…そう」
「繊……」
「神楽、アタシさぁ…」
「はい」
「やっぱり男は信用出来ないよ」
「…そうですか」
「でも、さ」
「?」
「朔耶と寿星だっけ?
 アイツ等は信じても良いかな?って…少しだけ思ってる」
「繊……」

神楽は力強く頷くと微笑を浮かべて優しく繊を抱き締めた。

「神楽…」
「それで宜しいんですのよ、繊。
 全てを信じる必要は無くとも全てを否定するのは余りにも哀しい…」
「神楽……」
「私は、繊を孤独にさせたくは無いんです。
 大丈夫、解り合えます。
 あの方達は…私達と、とても良く似ているから」
「…みたいだね。アタシも、何となくそう感じた」

神楽に抱き締められながら繊は朔耶の言葉を思い出していた。

『なら強くなれ。技だけじゃねぇ、心もだ』
Home Index ←Back Next→