来訪者

5. 妖刀村雨(第壱幕)

【妖刀】を持つ退魔師の存在。
十六夜と出会ってから、彼等が急に現れた様な気さえする。
まるで十六夜に誘われるが如く。

「…まさかな」

そんな事は無い。十六夜とは無関係だ。
朔耶は頭の何処かでそう思いたかった。

「だよな。そうじゃなきゃ
 俺はまるで十六夜の事を疑ってるみたいじゃないか。
 真っ先に信じなきゃいけないのに
 そんな莫迦バカの事考えてられるかっての」

以前の鳴神は【妖刀】を持っていなかった。
武者修行と称して姿を消してから
何らかの方法で手に入れたのだろう。
繊にしてもそうだが『どうやって契約したのか』迄は
教えてもらえそうにも無い。

「そうだ。もう一人居たんだ。
 【妖刀】を使える奴が直ぐ傍に!」

失念していた。
そもそも朔耶に【妖刀】の存在を知らしめたのは
他ならぬ十六夜なのだから。

彼奴アイツなら聞けば答えてくれるかも知れないしな。
 少なくとも鳴神や繊に聞くよりは話も早い」

そう思い、はたと気付く。
十六夜は今、何処に居るのだろうか。
出掛けるとは聞いていないし、その素振りも無い。
出掛けるとしても行き先は乾月の所位だろう。

「って事は敷地内か?」

いつまで待っていてもらちが明かない。
そもそも待ってるだけは性に合わない。
朔耶は部屋を出て、十六夜を捜し始めた。

* * * * * *

神社の鳥居側で十六夜らしき人影を見付ける。
彼は誰かと話している様だった。

「あぁ、参りました」

ニコッと微笑むと十六夜は
朔耶を呼ぶ様に優しく手を振り始めた。
どうやら話し相手は朔耶に用が有ったらしい。

「十六夜、誰と話して…あっ!」
「よう! 久しぶりだね、朔」
「…お袋! 何時帰って来たんだ?」
「ついさっきだよ」

朔耶の母、蓮杖れんじょう ゆみ
朔耶と十六夜、二人の顔を交互に見つめる。
そして、一言。

「念願の相棒を持てた感想はどうだい? 朔」
「…悪かねぇな」
「何照れてんだよ、気持ち悪いね。素直に喜びな。
 アンタの場合は相棒一人選ぶのでも
 色々と難儀なんだからさ」
「お袋…」
「中途半端にお山の大将気取る必要も無くなったね。
 漸く陽の目を見れそうじゃないか。
 乾月ちゃんにお前を預けて正解だったよ」

元気に早口で捲くし立てる弓に対し
十六夜は完全に呑まれている様だった。

「しかしまぁ…上品な顔立ちだこと。
 何も無精髭なんか生やさなくても
 ちゃんと手入れすれば良いのに」
「い、いや…私はそんな…」
「そう? 私が剃ってあげようか?」
「お袋……」
「だって可愛い顔してるのに勿体無いじゃない、ねぇ?」
「あ…あの……」

弓の剣幕に、流石の朔耶も十六夜もお手上げ状態であった。
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