五本目

5. 妖刀村雨(第壱幕)

「素敵な方じゃな」

湯船に浸かったまま、十六夜が呟く。
髪を洗いながらだった朔耶は一瞬だが聞き逃したらしい。

「ん? 何が?」
「お主の母上様じゃ。素敵な方だと申しておる」
「本人に言ったら喜ぶよ」
「そうか?」
「あぁ。お袋もお前の事、随分気に入ったらしいし」
「そうなのか?」
「話してりゃ解るよ、親子なんだし」

朔耶のパートナーとして
十六夜は相応しいと弓は認めたのだろう。
『二人は【対】だ』と弓は言った。
それは今なのか、それとも未来なのか。

「しかし、気になるな」
「何が?」
「お袋の言った言葉だよ」
「…あぁ」
「俺、何となく気になってたんだ」
「何を?」
「…【妖刀】の存在」

勢いよく石鹸の泡を洗い落とし
スッキリした状態で朔耶も湯船に体を沈める。
二人分の体積で湯船から多少の湯が溢れた。

「十六夜、鳴神、繊…。
 【妖刀】を持つ人間と出会う事なんて早々無い筈なんだ。
 何らかの意図が働いていない限り」
「……」
「この街が、『【妖刀】を呼び寄せた』様な気がする」
「…ふむ、成程な」
「後で見せてくれないか?」
「?」
「お前の【妖刀】。名前、何て言うんだっけ?」
「…【虎徹】」
「そう、その【妖刀 虎徹】。この目でちゃんと見てみたい」

『見世物じゃない』と断られるかも知れない。
朔耶は其処迄考えていた。
それでも、この目で確認したいとも願っていた。
すると。

「構わぬ」
「え? 良いの?」
「見たいのじゃろう? 構わんよ」
「多分見るだけ。どうせ触れないと思うから」
「……」
「十六夜?」
「この街に【妖刀】は四本存在する」
「え?」
「いずれ五本目が正体を現わすだろう」
「…十六夜。何でそれを?」
「気の流れを追って気が付いた。
 母上様が戻って来られたのも全くの偶然では無いだろう。
 お主の真価が試される時が来たのじゃ」
「俺の…真価…?」
「あぁ」

朔耶は漸く合点が行った。
先程の弓の言葉と、十六夜が【虎徹】を見せると言った意味。
朔耶の真価が問われる。
それは五本目の【妖刀】との契約を意味するのだろう。

「余り長く浸かってると逆上せるからな。そろそろ風呂から出るか」
「あぁ。ちとふらつく」
「そうなる前に言いなさいよね…」

十六夜は逆上せる直前だったらしい。肩を貸してやり共に浴室を出る。
流石に冬が其処迄来ているらしくヒンヤリとした空気が頬を掠めた。

「そろそろ冬か…」
「……」
「最近やけに冷え込んでくるから風邪引くなよ、十六夜」
「風邪?」
「…引きそうも無いか」

首を傾げる十六夜に対し朔耶は思わず苦笑を漏らした。
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