本 気

頃合か

追い詰められていた筈の男はそう呟き、
不気味な笑みを浮かべていた。
呟きに気付いた者は居ない。
繊と朔耶はもう一撃を加える為に
一歩踏み込んだ直後だった。

一筋の閃光。

音も無く繊の体が吹き飛び、
そのまま朔耶の蹴りが刀で受け止められる。

「これは……」
私にコレを抜かせるとは、なかなか面白い逸材だな。
 獲物も持たずにこの無謀さ。なかなか気に入った


遠くで神楽の悲鳴が聞こえる。
たった一撃。その一撃だけで繊を戦闘不能に陥れた。

「寿星ッ! 神楽と繊を守れっ!!」

自分に【妖刀】は無い。だが、戦わなければならない。
朔耶は覚悟を決めると気を集中して構えた。

「無理です! 逃げて下さい、朔耶さん!」
「駄目だよ。兄ぃはあぁなったら止められない」
「でも……」
「今は繊を安全な所に避難させるんだ。
 って言っても彼奴アイツが作った結界内じゃ
 何処が安全なんだか…」
「寿星さん……」

気合が炎に変わり、朔耶を包み込む。
彼の本気を読み取ったのか
男は満足そうに微笑んだ。

相打ち狙い…でもなさそうだが。
 生身で紅蓮の炎をまとうとは、
 やはりお前は面白い人間の様だ

「…御託ごたくは要らねぇ。来いっ!!」

男は刀を収める気は無いらしい。
炎を纏い、攻撃力を上げた朔耶の拳や蹴りを
器用に刀身で受け流していく。
一打一打が先程の繊とは違い、重い。
受け止めるにも受け流すにも
多少は男も苦戦を強いられている様だった。

* * * * * *

薄っすらと目を開けて見る。
何処と無くもやが掛かった様な視界。
おまけに非常に狭く、場所が確定出来ない。

「漸く目ぇ覚ましよったか」
「助かったよ、あさちゃん。
 流石にこの有様では病院に担ぎ込めないからね」
「乾月ちゃん、銭は…」
「あぁ。此奴こいつに請求してくれ」
「アンタ、相変わらずガメツイなぁ~」
「朝ちゃんには負けるよ」

一人は師匠、乾月の声だ。もう一人の声は聞き覚えが無い。

「し、しょう…?」
「もう大丈夫だ、鳴神。日本一腕の立つ医者に看てもらった」
「…俺、は」
「酷い有様だったよ。
 生命に別状は無いと言っても暫くは安静にしてないと」
「あの…野郎……」
「誰とヤった訳?
 此処迄 酷くやられるなんて、お前らしくも無いじゃないか」
「……透明人間」
「ん?」
「【妖刀】しか、確認…出来なかった。
 悔しいが…強い、あの野郎…」
「…【妖刀遣い】、か?」
「…判らない。でも、あの腕前は…」

乾月は口元に扇を当てるとそのまま黙り込んでしまった。
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