村 雨

5. 妖刀村雨(第壱幕)

(この一撃に賭ける)

朔耶は全神経を己の右拳に注いだ。
姿は見えずとも【妖刀】を操っているのは確実。
ならばその動きを予見し、
炎の拳を波動の中心に打ち込むしかない。
一瞬でも波動の揺らめきが見えれば
迷う事無く其処を狙い打つ。

朔耶は覚悟を決めた。

「でぃやぁーーーーーーーーっ!!」

朔耶が【妖刀】に向かって突進する。
姿を消した男は動じる事無く
静かに朔耶を迎え撃とうとしていた。

その時。

「兄ぃっ!!」

朔耶を追い抜く様に白い影が真っ直ぐに飛んだ。
狙うは、【妖刀】。
神楽の援護で寿星が呪符を飛ばしたのだ。

突然の援護に朔耶の動きが止まる。
何が起こったのか判らなかった。
慌てて振り返ると、
其処そこには笑みを浮かべる寿星と神楽が居た。

一瞬でも動きを止める事が出来れば
朔耶が勝利を掴み取ってくれる。
そう信じているからこその連帯攻撃。
二人の思いは呪符に力を与え
【妖刀】の柄に張り付く事に成功したのだ。

「兄ぃ、今の内に早く!」
「余り時間は稼げませんが、私達が食い止めます!」
邪魔をする気か…

一瞬だが男の姿が浮かび上がる。呪符の影響だろう。
しかし、それも本当に【一瞬】だった。
柄に貼り付いた呪符は直ぐに炎に包まれ、
焼け落ちてしまった。

「なっ?!」
「……」
真剣勝負に横槍を入れるな

【妖刀】が動いた訳では無い。
だが、男のこの声の直後に吹き荒れる突風で
寿星と神楽も又、結界の壁に打ち付けられてしまった。

「寿星! 神楽っ!!」
これで邪魔者は居ない。勝負の続きをしよう
「言われなくても…っ」

繊、寿星、神楽と目の前で倒され
朔耶もこのまま黙ってやられる訳にはいかなかった。
何より、此処で自分が倒されては
仲間達に申し訳が立たない。
そして。

此処迄の戦いに敬意を表してやろう
「何?」
我が名は【村雨むらさめ】。
 お前が望む、【妖刀 村雨】とは私の事だ

「な…何だと?
 それじゃお前が【村雨】の正体だと?」
私は【村雨】の意識体。
 【村雨】の契約者は…私が選ぶ


五本目、【妖刀 村雨】はそう言うと
あっと云う間に間合いを詰めて来た。
済んでの所で交わすが
その際に朔耶の頬に紅い線が浮かび上がる。
太刀の動きの速さに体が反応し切れず
頬を切られたのだ。

朔耶、と言ったな。お前は実に良く戦った。
 だが、所詮は此処迄の様だな。
 せめての慈悲だ。
 苦しむ事無く終わらせてやろう


次の瞬間。
朔耶の頭上には渾身の力が込められた
【村雨】の刀身が迫っていた。
Home Index ←Back Next→