間一髪

6. 再戦(第壱幕)

(此処迄か…っ!!)

全てを諦め、朔耶は目を閉じた。

もはや抗う術は残っていない。
刀が振り下ろされる、その瞬間を待つしかない。

だが、刀は朔耶を真っ二つには出来なかった。
鈍い金属音が響き渡り、
何者かがその先の動きを止めたのだ。
恐る恐る目を開くと
誰かが自分を守る為に【村雨】を食い止めていた。

「い…ざよい…?」
「間に合って、良かった…」

そのままの姿勢で十六夜が声を掛ける。
彼は自身の【虎徹】で
【村雨】の一撃を受け止めたのだ。
姿無き剣士相手だと云うのに
十六夜の目には男の姿が見えている様だった。

今度はお前が相手か? 【妖刀遣い】の男よ
「お主の相手は私では無い。朔耶じゃ」
何だと?
「素手の男相手に大人気が無い。
 真の勝負を決するのであれば」
何が言いたい
「この場は退いてもらおうか」
退かぬ、と答えれば?
「いや、お主は必ず退く。
 私と遣り合う気は毛頭無かろう」
ふ…ふふふ。成程な。
 随分と恐ろしい男が控えていたものだ


【村雨】は再びその姿を現した。
そのまま刀を鞘に収める。

朔耶よ。この男に免じて、勝負は預けておこう
「…預ける、だと?」
そうだ。一週間の猶予をやる。
 それ迄に私と戦う術を身に付けておく事だな。
 術が私に通じない事はこれで判っただろう

「く……っ」
一週間後だ。楽しみにしているぞ

【村雨】は静かに笑みを浮かべたまま
何処と無く姿を消した。
それに伴い、張られていた結界も消滅する。

「十六夜……」
「大事無いか? 朔耶」
「俺…約束、守れなかった…」
「……」
「【村雨】と契約するって言ったのに…
 俺、全然敵わなかった……」
「…まだじゃ」
「え…?」
「まだ勝負はついておらぬ。
 再戦が決まっている以上はな」
「十六夜…」
「朔耶。お主は私に申した筈じゃ。
 『自分の力を信じる』と」
「あ…」
「私は、お主を信じておるぞ。朔耶」

* * * * * *

「俺に出来ると思うか?」
「それを私に聞いてどうする?」
「お前にだから聞いてみたい」
「……」
「十六夜…」
「『契約出来る』と信じよ。先ずはそれからだ」
「そうだな…。十六夜、俺は約束するよ。
 どんな時でも俺は、自分を信じる。
 必ず契約出来るって、信じるよ」
「その言葉、忘れるでないぞ」

* * * * * *

「漸く、思い出した様じゃな」

十六夜はそう言って微笑んでいる。
自分に対して疑心暗鬼になっていた朔耶。
十六夜は約束を思い出す事で、
朔耶に【自分】を取り戻させたのだ。
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