信じる

6. 再戦(第壱幕)

朔耶の叔父、朝露の元に仲間達が次々と運ばれていく。
不満を口にしながらも
朝露は慣れた手つきで治療を進めていた。

「支払い、乾月ちゃんからは『患者に直接請求』とあるから」
「…解ってるよ」

比較的軽症で済んだのは
どうやら朔耶だけだった様だ。

「鳴神もやられたのか…」

力の差は歴然としている。
見せ付けられた実力の壁。
戦闘を振り返り、歯噛みする朔耶を
十六夜は乾月と共に遠くから見守っていた。

「…やはり、我々が動くしかないかね」
「……」
「契約は出来ないとしても封印なら可能。
 久々に組むかい? 十六夜」
「……」
「もうこれ以上、
 弟子が傷付き苦しむのは見るに耐えない。
 それならばいっその事……」
「ならば何故最初から自分で動かなかった」
「十六夜…」
「弟子を信じたから、であろう?
 それを今更取り下げる気か?」
「しかし…」
「お主は弟子を信じられぬか」
「……」

十六夜は表情を変えない。
悲痛さも悔しさも其処には無い。
冷静で動じない姿。

「【村雨】は朔耶が契約を果たす」
「十六夜…、気持ちは解る。
 しかし、どうやって戦わせる気だ?」
「私に考えがある」
「術は通じない。素手には限界がある。
 他にどうやって…?」
「何れ判る」
「十六夜!」

十六夜は静止する乾月を振り返る事無く
朔耶の元へと歩を進めた。

「…十六夜?」
「ついて来い」
「あ、あぁ…」

普段とはまるで別人の様な厳しい声。
朔耶は言われるままに立ち上がり
黙って十六夜の後をついて行った。

* * * * * *

そのまま何も言わず、二人が辿り着いたのは
朔耶の家でもある蓮杖神社の境内だった。

「此処ならば大丈夫であろう」
「十六夜?」

十六夜はそのまま両手を合わせ、精神集中に入る。
先日見たのと同様、彼の両手は紫色に発光され
眩いばかりの【妖刀 虎徹】が姿を現した。

「それは…【虎徹】」
「そうじゃ」

十六夜は【虎徹】を手にすると、
抜刀する事無く朔耶の前に突き出した。

「受け取れ」
「え?」
「受け取れと申しておる」
「だって、【妖刀】だろ?
 【妖刀】は契約者以外は触る事も出来ないって…」
「いいから持てっ!!」
「は…はいっ!!」

普段大人しい人間の慟哭は結構効く。
朔耶は十六夜の声に驚き、
思わず【虎徹】を握り締めていた。

「あれ? 持てる…。どうしてだ?」
「一週間以内に【虎徹】を自在に操れる様に成れ」
「はい?」
「それが再戦に打ち勝つ最低条件じゃ」
Home Index ←Back Next→