「【妖刀】に打ち勝つには【妖刀】での攻撃しかない。
【妖刀】に対抗出来るのは…
【妖刀】しかないのじゃ」
十六夜はその為に自分の【虎徹】を朔耶に託した。
自身が【村雨】に狙われるかも知れない。
そんな危険性を解っていながら…。
「お主自身の力、心で
先ずは【虎徹】を認めさせるが良い。
【虎徹】は自身が認めた人間に対して
忠実な仕事を果たす。
必ず、お主の力と成る筈じゃ」
「十六夜…。解った。
俺は必ず、あの【村雨】に勝ってみせる。
その為にも先ずは【虎徹】に認められる様
全力を尽くす!」
「…それで良い」
十六夜は漸く笑みを浮かべた。
いつも見せる優しげな微笑。
「十六夜…」
「ん?」
「ありがとうな。お前はいつも俺を守ってくれる」
「…信じているからな」
「じゃあ、その心に答えないとな。
俺も男だ。何時迄も守られるのは性に合わねぇ」
「…その言葉、忘れるな」
陽は既に地平に沈もうとしていた。
夕日に照らされる十六夜の背中は
やはりあの日の時と同様、大きく見えた。
「な、何でこんなに重いんだよ!
全然…持ち上がら、ねぇじゃ…ねぇか!!」
十六夜が姿を消した直後、
【虎徹】はいきなりその本性を現した。
まるで巨大な鋼鉄の塊の様な重量に変化したのだ。
勿論見た目は何も変わっていない。
認めていない人間が【妖刀】を手にすると云う事は
この様な変化を生み出すのだろう。
「地面に…減り込んで、るんですけど…?
これを、一週間で…
自在に、扱うんだよな…!」
ウンウン唸りながら持ち上げようとするが
朔耶の意思とは関係無く
【虎徹】が地面から起き上がって来る事は無い。
「漬物石かよ!!」
どれだけ悪態を吐こうが何も変わらない。
惨めな迄に振り回される。
「十六夜はあんなに軽く扱ってたってのに
契約してない奴だと…こうなるってか?」
無理に力を篭めている為か
先程の戦闘で痛めた筋肉が悲鳴を上げる。
歯を食いしばって耐えても
【虎徹】はウンともスンとも答えてはくれない。
「式神の鳩ちゃんは素直だってのに」
陽はスッカリ落ち、いつの間にか月が出ていた。
それでも尚、朔耶は諦めず
地面に減り込んだままの【虎徹】に悪戦苦闘していた。
朔耶の奮闘をそっと見つめる影。
何も言わず、ピクリとも動かず。
やがてその影は、視線を静かに上へと動かす。
明るく輝く月を静かに見つめる。
「今宵の月は…何とも力強い」
光の強さに、未来の朔耶の姿を併せ見る。
十六夜には寸分の迷いも無かった。