師の思い

6. 再戦(第壱幕)

朔耶の特訓が開始されて3日が過ぎた。
傷付いた仲間達の回復も芳しくなく
状況は更に悪化していた。
乾月は責任を感じてか
一人で街を彷徨い、【村雨】の動向を探っていた。

(いざと云う時は封印しか有るまい。
 街を救うには最早それしか…)

その日も同じ様に街を歩く。
何事も無い様な表情を浮かべて
しかしその視線は刃物の様に鋭い。
乾月の目にソレが留まったのは丁度そんな時であった。

(あれは…!)

足早にその姿の後を追う。
恐らく尾行は気付かれているだろう。
しかし、乾月にとっては
然したる事ではなくなっていた。

* * * * * *

「探したぞ、【妖刀 村雨】」

愛用の扇を翳しながら乾月はその男の前に姿を現した。

…お前、名は?
「乾月 猛。お前の探す【妖刀遣い】が一人。
 【兼元】の契約者よ」
…ほぅ。で?
「今此処で、お前を封じる」
…出来るのか? たった一人で
「私を見縊るな」

乾月はそう吐き捨てると扇に神経を集中させる。
やがてそれは静かに緑色の光に包まれ
ゆっくりと日本刀の形状に戻っていく。
乾月の【妖刀 兼元】が姿を現したのだ。

これで4本目…。
 いよいよ、揃ったと云う事か


【村雨】は何か思う所が有る様に呟いた。
しかし乾月の本気を確認すると
自身も静かに鞘の刀を抜こうと手を添える。

私が封印されるのが先か。其方が絶命するのが先か。
 此処で雌雄を決するも好し

「弟子の痛み、苦しみ…
 今こそ師である私が晴らして見せよう」

静かに上体を落とし、構える。
乾月の目にはもはや【村雨】しか映ってはいなかった。

* * * * * *

「やっぱ、り…まだ、重い…な!」

相変わらず朔耶は【虎徹】に振り回されたまま。
その重みに悪戦苦闘するだけだった。
悪戯に時間は過ぎていく。
焦りが更なる焦りを生じさせる。

「はぁ~!!」

大きく息を吐き出し、地面に大の字で寝転がる。
冬間近の空は雲一つ無い青空だった。

「…何時以来だろうな。
 目的のハードルがデカくて
 こんな風に嫌になっちまったのは」

挫折を最初に知ったのは
乾月の元へ弟子入りして間無しの頃。
自分の能力をコントロール出来ず
庭木を酷く折ってしまった時。
自身の力を恐れ、憎んだ
あの日の事を不意に思い出した。

「あの時、師匠に言われたっけか…。
 自分の力を左右する為の答えは
 自分自身の心の奥に有るって。
 いずれ判るって言われたけど
 俺、今でもよく解ってないかもな…」

地面に埋まったままの【虎徹】を見つめながら
朔耶は乾月に言われた
言葉の【真意】を必死に探していた。
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