傷付いた仲間達の回復も芳しくなく
状況は更に悪化していた。
乾月は責任を感じてか
一人で街を彷徨い、【村雨】の動向を探っていた。
(いざと云う時は封印しか有るまい。
街を救うには最早それしか…)
その日も同じ様に街を歩く。
何事も無い様な表情を浮かべて
しかしその視線は刃物の様に鋭い。
乾月の目にソレが留まったのは丁度そんな時であった。
(あれは…!)
足早にその姿の後を追う。
恐らく尾行は気付かれているだろう。
しかし、乾月にとっては
然したる事ではなくなっていた。
「探したぞ、【妖刀 村雨】」
愛用の扇を翳しながら乾月はその男の前に姿を現した。
『…お前、名は?』
「乾月 猛。お前の探す【妖刀遣い】が一人。
【兼元】の契約者よ」
『…ほぅ。で?』
「今此処で、お前を封じる」
『…出来るのか? たった一人で』
「私を見縊るな」
乾月はそう吐き捨てると扇に神経を集中させる。
やがてそれは静かに緑色の光に包まれ
ゆっくりと日本刀の形状に戻っていく。
乾月の【妖刀 兼元】が姿を現したのだ。
『これで4本目…。
いよいよ、揃ったと云う事か』
【村雨】は何か思う所が有る様に呟いた。
しかし乾月の本気を確認すると
自身も静かに鞘の刀を抜こうと手を添える。
『私が封印されるのが先か。其方が絶命するのが先か。
此処で雌雄を決するも好し』
「弟子の痛み、苦しみ…
今こそ師である私が晴らして見せよう」
静かに上体を落とし、構える。
乾月の目にはもはや【村雨】しか映ってはいなかった。
「やっぱ、り…まだ、重い…な!」
相変わらず朔耶は【虎徹】に振り回されたまま。
その重みに悪戦苦闘するだけだった。
悪戯に時間は過ぎていく。
焦りが更なる焦りを生じさせる。
「はぁ~!!」
大きく息を吐き出し、地面に大の字で寝転がる。
冬間近の空は雲一つ無い青空だった。
「…何時以来だろうな。
目的のハードルがデカくて
こんな風に嫌になっちまったのは」
挫折を最初に知ったのは
乾月の元へ弟子入りして間無しの頃。
自分の能力をコントロール出来ず
庭木を酷く折ってしまった時。
自身の力を恐れ、憎んだ
あの日の事を不意に思い出した。
「あの時、師匠に言われたっけか…。
自分の力を左右する為の答えは
自分自身の心の奥に有るって。
いずれ判るって言われたけど
俺、今でもよく解ってないかもな…」
地面に埋まったままの【虎徹】を見つめながら
朔耶は乾月に言われた
言葉の【真意】を必死に探していた。