運命を紡ぐ者

6. 再戦(第壱幕)

「いざ!」

乾月の手に力が入る。
鞘から刀を引き抜こうとした正にその瞬間。

「?!」

誰かの手がそれを遮った。
力を篭めている訳でも無いのに
乾月はその手を振り払って刀を抜く事が出来ない。

「…止めてくれるな、十六夜」

弱々しい声で反論するもその手の主、
十六夜は彼を牽制したまま。

「十六夜…」
「お主らしくも無い。勝算無きまま挑むとは」
「し、しかし私は…」
「師であるお主が無謀を犯してどうする。
 弟子が後追いするでは無いか。
 少しは冷静になれ」
「う……」

十六夜は静かに乾月を諭す。
乾月は項垂れ、力無くその場に頽れた。

「【村雨】よ」

十六夜はそのまま視線を【村雨】に。
【村雨】も又、途中からは十六夜だけを見ていた様だ。

「何故に街を徘徊しておる」
…さて?
「物色、か」
…私の考えが読めている様だな
「期限は後4日有る筈だが?
 その間、大人しく待てぬものか?」
朔耶との再戦を1週間後にとは言った。
 だが、魂の物色をしないと言った覚えは無い

「そうか…。その程度か、お主の矜持は」
何だと?
「ならば少し、【仕置き】をしてやらねばならんか…」

その時に見せた十六夜の表情は
乾月でさえも恐怖を感じる程だった。
小柄な十六夜の何処に
これ程に圧倒的な気迫が有るのか。

見た所、今のお前は丸腰の筈。
 私が怖くないとでも…?

「私は死なぬ。恐怖等無い。
 お主が望むなら、見せてやろうか。
 人ならざる者の能力を、な」

一歩、又一歩と十六夜は間合いを詰める。
相手が丸腰だと解っている筈なのに
【村雨】はまるで動けずにいた。
これでは蛇に睨まれた蛙である。

「さぁ、どうした? 暴れたいのであろう」

笑顔を浮かべてはいるが
十六夜には一切の隙が見当たらない。
そして、彼の左胸が怪しく輝いている。
其処から感じ取る、気の圧力。

この男、まさか…?

【村雨】も何かを察したらしい。
先程迄の好戦的な態度を改め、
静かに己の刀を鞘に収めた。

成程…。『我々がこの街に引き寄せられた』のも
 やはりそう云う事だったのか。
 これで全ての糸が繋がった…

「……」
「な、何を言ってるんだ…? 十六夜、奴は…」
「もう終わった。安心せい、乾月」
「しかし…」
十六夜。運命さだめを紡ぐ者よ。
 人の理を逸脱した悲しき人形ひとがたよ。
 お前の見るしるべ通りに未来は進むであろうな。
 私も又、その為の【駒】でしかない。
 …そう云う事、だな


十六夜は何も言わなかった。
だがその表情は朔耶が最も気にしていた
あの【悲しげな】ものとなっていた。
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