約束の日

6. 再戦(第壱幕)

約束の期日が訪れた。

朔耶の全身に大小の傷が残る。
どんな修行を自分に課したのか。
そんな朔耶の姿を見て
十六夜も又、納得した様に頷く。

「…行くか」
「付いて来てくれんの?」
「あぁ」
「そりゃ良いや。安心する」
「そうか」

短い言葉で交わされる想い。
朔耶の纏う気の質は確実に変化していた。
それを実戦で生かせるかどうか。
十六夜の同伴は【見極める】為でもある。

「十六夜」
「ん?」
「師匠は?」
「叔父貴殿の処じゃ」
「そうか…。寿星達、まだ……」
「うむ。【村雨】の攻撃は気を削る。
 体力よりも精神力、魂の消耗が大きい」
「寿星…繊、神楽……」

自分と共に立ち上がり、
自分の力不足故に傷付いた仲間達。
朔耶は拳を固く握り締め、歯噛みした。

「お主の勝利が彼等の奮闘に答える唯一のもの。
 邪念は捨て、目の前の戦いに集中せい」
「…そうだったな。ありがとう、十六夜」

こんな状況に於いても揺るがない。
十六夜の心の強さは度々目にしてきてはいたが
この強さの由来が何処に在るのかは判らず仕舞いだった。

しかし、今ならば解る。何度戦い、生き抜いてきたのか。
気が遠くなる位に敗戦し、苦汁を舐め、
それでも生きてきた。
十六夜の強さは
『生きる事から逃げなかった』証なのだと云う事を。

「十六夜」
「何じゃ?」
「俺は、必ず追いつくぜ。
 いや…追いつくだけじゃ満足出来ねぇ。
 必ず、追い抜いて見せるからな」

不意に投げ掛けられた言葉に対し
十六夜は最初、目を大きくして驚いていた。
しかし、やがてはその意味を理解したのだろう。
朔耶の好きなあの優しい微笑を浮かべ、確りと頷いた。

* * * * * *

【妖刀】の気配を探り、
辿り着いたのは人気の無い廃工場だった。
時間は正午過ぎ。太陽は頭上に輝いている。

「【妖刀 村雨】!!」

朔耶の声が廃れた工場内に響き渡る。
すると、大きな機械の裏側から何かの影が動いた。

「待たせたな、【村雨】! 約束通り、来てやったぜ!!」
…随分とデカイ口を叩く。
 先に言っておくが『次は無い』ぞ?

「んな事、解ってるさ!」

朔耶はそう叫ぶと、ブツブツと何かを唱え精神統一に入った。
その右手から生み出される気。
ゆっくりと形作り、朔耶の右手に握られた
それは正しく【虎徹】であった。

ん? 【妖刀】、だと?
 貴様、何時から【妖刀遣い】に…?

「俺だって無駄に一週間を過ごしてたんじゃねぇよ」

我が刀の如く朔耶は華麗に操って見せると
そのまま構えに入った。
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