憑 依

6. 再戦(第壱幕)

【妖刀】と契約者の間の
強大な気の遣り取りが発生する際
スムーズに伝達する為に
互いの意識を限りなく同調させる必要が有る。
十六夜、そして【村雨】が
【意識共有】と呼ぶこの行為は
『どちらが主体となって動くか』が
最大のポイントとなる。

(【妖刀】との一体化を図れなければ、
 やがて意識が消耗していく。
 巨大な気の受け皿と成れる時間は限られている…)

十六夜は暫し思案していたが、
恐らくは何か考えを見付けたのだろう。
口元に笑みを浮かべ、【村雨】を…
姿を隠した意識体ではなく、刀自身を見つめた。

「今の朔耶と【虎徹】で意識の同調は行われていない。
 ならば……」
?!
「お主側の同調を崩せばよい事だな、【村雨】よ。
 これでお主と朔耶の土俵は同じとなる!」
な、何だと? 貴様、正気かっ?!
「元より覚悟の上っ!!」
「十六夜っ?!」

乱戦の中、飛び込んで来た十六夜は
右手で【村雨】の柄を握り締めた。
十六夜が行使する事により、
【村雨】を操っていた筈の意識体が
その場から突如消えてしまったのだ。

「十六夜? おい、十六夜…」
「……」
「十六夜?」
我ハ…【村雨】…ナリ…
「十六夜…?」

近付いて来た朔耶の手を払い退け、
振り向いた十六夜の両眼は
黒目部分が完全に血の様に濃い赤色と化していた。

「十六夜……」

声を掛けても反応は無い。
彼から放たれる気はいつもの穏やかな物ではなく
【村雨】同様、殺気に満ちていた。

「憑依…されたってのか…?
 何で、こんな……」
朔耶ヨ…。我ヲ倒セルカ?
 倒セナケレバ、コノ男ハ生涯コノママ…

「倒せるかって…倒せる訳ねぇだろ!
 体は十六夜なんだぞっ?!」
ナラバ…契約ハ、諦メルノカ…
「それは……」
オ主ニ、ソノ気ガ無クトモ…
 我ハ…オ主ヲ…倒ス……

「十六夜……」

【村雨】の声の中に、時折混ざる十六夜の言葉。
彼は今、正に戦っているのである。
完全に飲み込まれぬ様に、と。

「…俺だけが、逃げる訳には行かない」

約束したのだ。必ず勝つと。勝って、契約を果たすと。
それこそが仲間に、十六夜に報いる唯一の形。

「…俺は、戦う……」
朔耶……
「【村雨】。お前を倒し、十六夜を解放する」

朔耶は改めて【虎徹】を構えた。
彼を取り巻く気の流れに変化が起こる。

oMオン amoghaMアボキャ - vairocanaベイロシャノウmahAマカ - mudrAボダラ - maNiマニ - padmaハンドマjvAlaジンバラ pravartayaハラバリタヤ hUMウン…。…」

【影喰】に獲り込まれたヤスの魂を救済する時に
十六夜が用いた【光明真言和讃】を唱え、気を高める。
あの時と同じ様に、【虎徹】は更に淡く輝き出した。

(俺が、救い出すんだ…。
 十六夜を…必ず……)

想いと、祈りを込めて。
朔耶のその姿を、【村雨】に憑依された十六夜は
怪しく微笑みながら見つめていた。
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