剣士二人

6. 再戦(第壱幕)

まさかこの様な形で二人が戦う事になろうとは。
少なくとも朔耶は考えてもいなかっただろう。
だが、今こうして朔耶と十六夜は
激しく刀を撃ち合い、鍔迫り合い、戦い続けている。

十六夜の細身の体。
何処にこれ程の力が隠されていたのか。
足の動きにしても、流れる様な剣捌きも、
脅威としか言えない。

(くっ…、これが実戦経験者の腕って事か…っ)

強い。それは認めざるを得なかった。
正直、【村雨】の意識体と斬り合っていた時の方が
まだ自分も心身共に余裕を感じられた。

ドウシタ? 押サレテイルゾ?
「言われ…なくてもっ!!」
少シハ【妖刀】ヲ使イコナセル様ニナッテ来タカ…。
 ダガ、マダマダッ!!


十六夜は更に其処から力を加え、
朔耶の腹部目掛けて蹴りを食らわせた。
刀に意識を取られていた朔耶は
完全に受身を取り損ない、
大きく後ろへと蹴り飛ばされる。

「ぐはっ!!」
コレガ戦イダ。
 チャンバラゴッコトハ訳ガ違ウンダヨ


十六夜が間髪入れずに間合いを詰めて来る。
地面を転がり、追撃を避けると朔耶は体制を取り直した。
此処迄は完全に十六夜に押され、隙を見出せなかった。

(強ぇ…。半端じゃねぇ、十六夜の強さ…。
 でも、何故だ?
 殺ろうと思えば幾らでもチャンスが有った筈。
 何故…追撃に時間を置く? 何故だ…?)

十六夜の猛攻撃を紙一重で避けながら
朔耶はその一打一打に殺意と反した動きを感じた。
十六夜が【村雨】の憑依に抗っているから、なのか。
それとも、何か別の思惑が有るのか。

甘イッ!!

下段から攻撃を撃とうとした所を読まれたらしい。
そのまま刀で払い除けられる。
十六夜は更に蹴りで追撃して来たが、
それを朔耶も蹴りで応酬した。

(下段から中段は恐らく十六夜が得意としている型だ。
 それは【村雨】にも伝わっている筈。
 俺が得意とするのは上段から中段に流す型。
 それならば十六夜から【村雨】を弾き飛ばす事も可能だ。
 だが…どうやらその攻撃は読まれている…。
 敢えて中段で勝負するべきか? それとも……)

これで何度目の鍔迫り合いになるだろう。
今度は互いに刀に全神経を集中させているので
追撃を行う事が出来ずにいた。

朔耶
「えっ?」

不意に脳に響き渡る声。
十六夜の声に良く似ていた。

迷うな。討て!
「?!」
相手の気を断たねば、倒した事にはならぬ。
 今こそ覚悟を決め、目の前の敵を討て!


声は十六夜を討てと命じた。この声に従うべきか。
しかし、もし十六夜の身に何か有れば…。

私を信じよ、朔耶
(十六夜…この声は、お前なのか?
 お前の声だって、信じて良いのか?)
朔耶…。私は、お主を信じているぞ…
「十六夜……」

朔耶は喉を振り絞る様に声を出した。
【虎徹】に力を篭め、叫びを上げながら。
十六夜は最上段から【村雨】を振り下ろす。
だが、それよりも速く…
【虎徹】は十六夜の胸板を貫通していた。
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