7. 使い魔(第壱幕)

外はもうすっかり雪景色だった。
忙しかった三が日も終え、漸く訪れる筈の安息も
飛び込む依頼の数で吹き消される。
ただ、以前と違う事が一つ。
それは…十六夜が朔耶達の助っ人として
依頼業に参加する様になった事だった。

繊や神楽とは何度か現場で顔を合わせた。
相変わらず危険極まりない繊の戦い方も
神楽のサポートの御蔭か、
幾分か見られる様に成長していた。

「アンタ、強いんだね」

男嫌いの筈の繊がそう十六夜に声を掛けた時は
その場に居た全員が驚いたものだった。

「そうでもない」
「そう? 少なくともアンタみたいに強い奴
 アタシは初めて見たよ」
「…私より強い奴、か。居るよ、確実にな」

その時に見せた十六夜の不安定な表情。
何かに脅えている様な目。
異変を感じ取ったのは朔耶と、神楽だった。

「なら、俺が其奴以上に強くなってやるさ」
「……」
「…いずれ、な」

朔耶の微笑みに十六夜も笑みを返した。
しかし明らかにぎこちなく
却って寿星や繊に迄 不安にさせた。

「さて、依頼も済んだ事だし…帰ろうか」
「解った」

朔耶の合図に十六夜は頷き、
仕事の為に呼び出していた者達を手元に戻す。
札の形に戻る白い鳩。
そして、小さな竹筒の中に戻る狐の霊。

「それは、管狐くだぎつね…ですか?」
「あぁ」
「では十六夜さん。貴方は…飯綱いづなの家柄?」
「…違う」
「しかし、ではその管狐は…」
「正式な管狐では無いからな」
「え…?」
「不慮の事故に遭い、彷徨さまよっていたのじゃ。
 だから力を分け与え、今はこうして使役している」
「それって……」

神楽はその説明だけで事情を理解したらしい。
十六夜の持つ力、その底知れぬ存在も。

「どう云う事? 神楽」
「本来であれば…浄霊された存在は天に召されますが
 この狐さんは自分の意思で
 十六夜さんの使い魔に成った様です」
「そんな事が、可能なの?」
「通常では有り得ません。浄霊後は昇天しますから。
 現世に未練を残す事も まま有るみたいですが…
 魂がこの様に確りと形を成す事は殆ど有りません」
「へぇ~」
「魂に形を与える所業…。
 修験者の方にはそれが可能なのでしょうか?」
「修験者だから、と云う訳でも無さそうだな」
「朔耶さん…」
「十六夜がどんな修行をしたのかは判らないけど
 これほど色んな技を使えるって事は
 普通の人間じゃ有り得ねぇんだろ?
 なら、やはり十六夜だから出来るって事じゃねぇのかな」
「…兄ぃ、何の説明にもなってないっすよ」
「良いんだよ。こう云うのはフィーリングなの」

朔耶はそう云うと、御馴染みの笑顔を浮かべて見せた。
十六夜だから。
朔耶にとって、説明等その程度で充分だった。
Home Index ←Back Next→