赤い車

7. 使い魔(第壱幕)

昨日の交通事故は新聞の一面で詳細が明らかになった。
記事に一通り目を通した直後から
十六夜の行動が急に慌しくなる。
一人で何所かに出掛け、日没に帰って来る。
それが2~3日程続いただろうか。

「邪魔するよ」

不意に訪れた客人の姿に朔耶は唖然とし、思わず息を呑んだ。

* * * * * *

「十六夜が?」
「そう。急にやって来て一言。
 『此処最近、あの交差点で発生した交通事故について
 事細かな情報を集めろ』ってね」
「はぁ…」
「私もさぁ、警察官じゃないんだから
 其処迄詳細な情報を持ち合わせている訳じゃないんだけど。
 だからと言って聞く男じゃないのも解ってるからね。
 一寸知り合いを突っついて取り敢えずの分を集めて来たんだ」
「…済みません。何か、大騒ぎになっちゃったみたいで……」
「いや、今迄騒がなかったツケが回って来たんだよ」
「はい?」
「う~ん、まだお前には感知出来ないか。
 やはりこの辺は力の属性にも拠るのかな?」
「師匠…?」

乾月はフッと笑みを浮かべるとそのまま朔耶に資料の束を手渡した。

「十六夜に伝えておいてくれ。『万事、お前の考えた通りだ』とね」
「は…はい…」
「全く彼は…肝心な時に不在とは…」

伝言を託すと、乾月は笑顔のままでその場を後にした。

* * * * * *

「これ、師匠から」
「乾月が参ったのか?」
「あぁ。ほら」

朔耶から受け取った資料を無言で目を通す。
全て読み終えてから、十六夜は小さくだが「うむ」と頷いた。

「何? 何か判ったのか?」
「あぁ。覚えておるか、朔耶。先日の事故」
「そりゃ勿論! 電柱に車が正面衝突して、大変だったからな…色々と」
「車の事は覚えておるか?」
「車? …確か、赤の乗用車。軽ではなかったな、うん」
「それが【答え】じゃよ」
「ん? 答え?」
「そうじゃ」
「どう云う意味?」
「見てみよ」

十六夜は資料に添付された事故車の写真を床に並べた。
大小の差はあるが、確かに事故車は全て【赤い車】だったのだ。

「それって、つまり…」
「この事故には何者かの意志が働いておる」
「赤い車に対して、か?」
「……」
「十六夜。お前、もしかして…犯人の目星が付いてるのか?
 正体を掴んだ、とか…」
「…あぁ。しかし、確証が無かった。
 この行為に到る迄の強き思い、【動機】がな」
「動機…。それを探っていたって訳か…」
「説明が遅くなってしまって済まなかった、朔耶」
「それは良いんだけどよ…」

朔耶はそう言ってから苦笑した。

「あの師匠をパシリに出来るなんて
 この世界でもお前位のもんだよ」
「…はかり?」
「……もう、良い」
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