未練の鎖

7. 使い魔(第壱幕)

「迷うな、朔耶。これは正に【念】の勝負。迷いは心に隙を生む。
 念が定まらぬままでは術を行使出来ず到底勝負にはならぬぞ」
「十六夜…」
「退魔師の戦いとは正に【念】にある。
 集中し、気を練り、念を集める事こそ全ての戦術成果に繋がる」

十六夜は静かにそう呟くと左の腰の辺りに両手を添える。
【虎徹】の召還である。

(十六夜は彼奴アイツを浄霊する。
 どんな事が遭ってもその魂を救う気だ。
 ならば俺に出来る事は…
 俺の『祓う』力が発揮出来る場所は…
 俺の、役目は……)

朔耶も又、自身の右手に意識を集中させる。
鼓動の高まりと共に発生する光と熱。
十六夜の時とは違う、青白い炎が彼の手を包み
やがて刀へと形成されていく。

「やるぜ、【村雨】!
 俺達の役目はこれ以上彼奴に力を蓄えさせない様
 霊道を断って浮遊霊を『祓う』事だ!」
おうよ!!

派手な登場だけでは無い。
朔耶を中心として同心円状に広がる衝撃波が
そのまま浮遊する悪霊達を直撃し、消し去ってしまった。

「っと、流石に凄ぇな…。
 一薙ぎでこれだけの威力とは。
 除霊の力が桁違いになってる」
見直したか、俺様の力を
「あぁ…素直に認めるわ」
お前のそう云う素直な所、俺も結構気に入ってる
「ははは…」

これが【妖刀】の力と云う物なのだろう。
頼もしい【村雨】の存在に朔耶は思わず笑みを漏らした。

「後は…十六夜次第だな。
 頼んだぜ、十六夜……」

* * * * * *

低い唸り声が発される度に濃くなっていく黒い霧。
牽制のつもりなのだろうか。

「私を感じ取れるか?」

十六夜は怯む事無く、優しく声を掛けながら
一歩、又一歩と距離を詰めていく。

ガルルゥーーーーー
「人が憎いか。…憎かろうな」
グルゥーーー
「ならば何とする? いっそ殺すか?」
ガゥゥ……
「お主の心に秘められた念を
 全て私にぶつけてみるが良い」

十六夜の口調や態度は少しも変化が無い。
優しく、あくまでも穏やかに。

「受け止めよう、お主の無念を。
 そして晴らしてみせよう、お主の未練を」
ガルゥーーーーーーッ!!!
「十六夜っ?!」

仔犬の霊は憎しみを隠す事無く
恐ろしい形相のまま十六夜に襲い掛かった。

「お主と現世とを繋ぐ鎖。今、此処に断ち斬ろう」

彼の右手には愛刀【虎徹】が握られている。
優しく、それでいて哀しげに紫色に輝く【妖刀】。

「はっ!!」

仔犬の一撃を寸で交わしながら
十六夜は地面の或る一点に【虎徹】を突き立てた。
Home Index ←Back Next→