飼い主の女

7. 使い魔(第壱幕)

あの一件から5日後。

朔耶、十六夜と使い魔三体は散歩に出ていた。
朔耶の思い付きである。
こうして街を歩く事など無かったと言う仔犬は
見る物全てに反応し、興奮していた。
可愛い弟が出来たと管狐は喜び、
鳩も満更では無さそうだった。

「家族が増えて良かったな」

朔耶はそう言って、十六夜の手を握り締める。
恥ずかしそうに握り返してくる
十六夜の顔が少し幼げに映った。

「良い事じゃねぇの? 家族が増えるってのは」
「…そうじゃな」
「何照れてんの?」
「…その、手を繋がんでも…」
「ん?」
「私は何所にも逃げんよ」
「そうじゃなくて、迷子になったら困るでしょ?」
「誰が迷子に?」
「お前が」
「…迷子になどなるか」
「だってさぁ」
「ん?」
「お前って確りしてそうで抜けてるんだもん」
言えてる
そうだな
ソウナンダ…
「お主達まで、そう申すか…」

以前の事故多発地帯も今はスッカリ静かなものだ。
気の流れも正常化し、以前の姿を取り戻していた。

「凄かったな」

あの時の十六夜の働きを思い浮かべ、
朔耶は思わず呟いていた。
そして十六夜の顔を見ると
彼は何故か険しい顔で【誰か】を見ていた。

「どうした?」
「あの女子おなごが…」

向こう側から近付いてくるOL風の女性。
その腕にはチワワが抱かれている。

「十六夜…?」
「……」

十六夜がこの様な表情を浮かべる事は滅多に無い。
気が付けば足元の三体も同様だった。

「そうか、あの女が……」

十六夜は仔犬を救い出す際、
彼の意識と深く結び付いている。
つまり、仔犬を捨てた飼い主の顔を知っているのだ。

「十六夜、短気を起こすなよ」
「…当たり前だ。つまらぬ事を申すな」
「解ってるつもりだろうが、今のお前はヤバい。
 憎悪が溢れ出てやがるからな」
「ふん…」

憎しみから術を使う男では無いと解ってはいるが
それでもこのまま何事も無く済ませるとは思えなかった。
朔耶自身もそう思っていたからだ。

「俺が行く」

十六夜は鋭い目線を朔耶に向けただけで
何も言おうとはしなかった。

「お前は此処に居ろ、十六夜。
 お前達もだ。十六夜と共に居ろ」

使い魔達にも待機を命じる。
彼等も思う所は有っただろうが
朔耶の意見に逆らう様子は無い。

「こう云う役はお前に似合わん。
 だから俺がやる。文句は言わせねぇ」
「……」
「その無言、【了承】と受け取ったからな」

朔耶はニヤリと笑みを浮かべると
そのまま一人だけ真っ直ぐに歩を進めた。
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