会 合

9. 宿業(第壱幕)

その日の夕刻、寿星のスマートフォンに
珍しい番号が表示されていた。
留守番電話にメッセージが吹き込まれている。
慌てて再生させると、声の主は神楽であった。

『急に申し訳有りません、神楽です。
 折り入って乾月さんに顔繋ぎして頂きたい件が御座います。
 宜しくお願い致します』

声は何処か【焦り】を感じさせる、となると火急の用だろう。
朔耶では無く敢えて自分を指名してきた辺り
何か大変な事情が有るのかも知れない。
寿星は迷わず掛かってきた番号を再ダイアルした。
2回の呼び出し音の後、出て来たのは神楽で無く繊だった。

「あ、繊? さっき神楽ちゃんから電話が…」
『かけ直してくれたんだな。済まない。
 どうしても乾月さんに伝えたい事が有るって神楽が』
「解った。あの人、大概 家に居るから案内するよ。
 で、兄ぃには…」
『朔耶には まだ内密で頼みたいんだ。これも神楽が言ってたんだが』
「そっか…」
『無理ばかり言って御免。まだ確かになってない情報だらけでさ…』

あの勝気な繊が何度も謝罪の言葉を口にしている。
時間は余り無い。更に手持ちの情報が少ない。
それ故に彼女達は乾月の持つ情報網を頼りたいのだろう。
何の為にそれ等が必要なのかは判らなかったが
寿星は直感できっと朔耶の為になると思う事にした。

「じゃあ、最寄りの地下鉄の駅の前で待ち合わせしよう。
 俺も今から向かうから」
『助かる。アタシ達も直ぐに向かうよ』

電話を終了すると、寿星は振り返る事無く目的地へ向かった。
勿論 約束通り、朔耶には何も伝言を残さなかった。

* * * * * *

寿星達が乾月の自宅に到着したのは20時を回った事だった。
彼女達の到来を予期していたのか
乾月は驚く事も無く笑顔を浮かべたまま3人を招き入れた。

「寿星から話は伺ってるよ」

3人を客間に通し、飲み物を出して暫くしてから
乾月は単刀直入に話を切り出して来た。

「私も先日、羅盤で吉凶を読んでみたんだよ」
「…やはり何かを感じられたんですね」
「あぁ。非常に良くない気の流れを読み取った。
 羅盤も暗雲立ち込める未来を映し出したよ」
「神楽の先見と同じだ。
 激しい光と影の交わる先、激しい憎悪と殺意…」
「どうやら神楽君の方が私よりも鮮明に見た様だね。
 流石は今世の【八乙女の祭巫女】だな」
「?!」
「どうして、【祭巫女】の事を…?」
「この【情報網の広さ】を買ってくれたからこその訪問だろう?
 まぁ、【祭巫女】に関しては十六夜からの情報だけどね」
「やはり…そうでしたか……」

笑顔を浮かべている乾月。神楽も納得がいったかの様に深く頷いた。
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