家出をしたと云うにも関わらず、神楽が両親から咎められもせず
乾月達ですらスンナリと奥の書物蔵に通された時は正直驚きだった。
(切迫している状況は流石に本家も気が付いてたって事かな?
それとも一連の家出も【修行】の一環だったのかも。
彼女が【祭巫女】の自覚を持つ為の……)
歴史の長い八乙女家だけに、その所有する文献の数も尋常では無い。
棚に所狭しと詰まれている巻物の山を見ただけで
寿星は目を回して倒れそうになる程だった。
「この中から探していく訳だが…っと、失礼」
乾月は懐の携帯電話を取り出して着信元を確認する。
そして一人頷き、携帯を懐に戻した。
「済まない、私は一旦 席を外すよ。直に戻るから」
「解りました。私達は作業に入ります」
「力仕事なら遠慮なく寿星を使ってやってくれ」
「えっ? ちょっ! 師匠っ?!!」
慌てる寿星に軽く手を振りながら、乾月は足早に蔵を後にした。
八乙女家本家の裏口。
壁を背に立つ男の姿を確認し、乾月は笑顔で近付いていく。
「よく此処が判ったね、鳴神」
「師匠。俺の情報網を甘く見ないで欲しいな」
「いやいや、また腕を上げたから喜んでるんだよ」
「…どうだか」
「で? 此処迄態々出向いたには理由が有るんだろう?」
それまで笑みを浮かべていた鳴神だったが、急に表情を強張らせた。
「東の
「何だと?」
「確かこの街を守護する【四神結界】の要だったよな?」
「そうだ。お前だけには、そう指導してきた」
「南の
「そう考えるのが筋だろうな。
【四神結界】を破り、街を崩壊させる…か」
「四神と言うからには後2か所在るんだよな? 何処だ?」
「…北と西に関しては不明なんだよね。
結界の楔たる祠が存在しない」
「守り様がねぇな」
「まぁ、逆に考えなよ。
隠してあるからこそ簡単には破壊出来ない、とか」
「お気楽な考えだこと」
鳴神は火を付けずに煙草を咥えるとそのまま口で弄んでいる。
彼なりに苛立ちを隠そうとしているのであろう事を
師匠である乾月には手に取る様に理解出来た。
「どんな理由であれ、4つ在る内の2か所が潰されたのは事実だ。
大昔から張られてる【四神結界】もその効力は半減してるだろうな。
どうするんだ? 師匠。結界の張り直しなんざ出来るのか?」
「あれは独特の張り方をしてるから、そう簡単には行かないだろうね」
「じゃあどうするんだ?」
「まぁまぁ。取り敢えず張り方に関しては此処のお宅に資料が残ってないか
目下総力を挙げて検証中だから」
あくまでもマイペースを維持する師匠、乾月に対し
流石の鳴神も苦笑を浮かべるしかなかった。