宿 業

9. 宿業(第壱幕)

「漸く会えたね、九条。何時以来の事であろうか」
「平 朔耶の死、以来」
「そう云う事も有ったかな?」
「今より千年近く昔の事」
「左様か。先日お前と再会したあの山での事だったかな」
「……」
「さぁ、九条。余と共に【九重】へ戻るのじゃ」

右手を差し出して微笑む六条親王に対し
十六夜は【虎徹】の切っ先を向けた。
月の光を受け、【虎徹】は一層の輝きを増す。
彼の名と同じ。今宵は、十六夜の月の夜。

「断る」
「ん? 余に刃向う気かい?」
「あの山…火産山で朔耶は殺された。
 私の目の前で。…貴様の手に因ってっ!!」

今の十六夜に、六条親王に対する恐怖心は見出せない。
それよりも強く滲み出ている感情は【復讐心】だった。
最愛の存在を目の前で喪ってから千年の長い月日を
彼は今、此処で晴らそうとしている。

「その刀で余を討つつもりかえ? 九条や」
「我が名は十六夜。退魔師、【十六夜】!
 九条は…千年前に没したっ!!」

そう叫ぶと同時に十六夜は真っ直ぐ斬り掛かった。
六条親王は、と云うと、その一太刀を
突然出現させた自分の刀で難無く受け止めた。

「何っ?!」
「妖刀を【創り出す】のも難儀な事よのぅ。
 方法を聞く前に、作り手は皆 死んでしもうたし。
 取り敢えず作ってみたが、これでは【妖刀】では無く【魔剣】」
「その剣を生み出す為に、又も大勢の血を無駄に流したか」
「無駄ではあるまい。虫けら程の生命でも余の剣の糧と成れたのだ。
 寧ろ余に感謝すべきであろうよ」
「戯言を申すなっ!!」

十六夜は更に攻勢を強める。此処に来ても尚、彼は剣戟に拘った。
術での攻撃ではなく、あくまでも剣戟で仕留める。
それは平 朔耶の無念を晴らす為の戦いにも見えた。

* * * * * *

一方、朔耶は自身の携帯電話で寿星を呼び出そうとしていた。
何度かのコールの際、漸く出て来た寿星の説明も聞かず
朔耶は十六夜が失踪した事、
新たな敵の出現とその危険性を一気に捲し立てた。

『で、兄ぃは今何処に?』
「南にデカい霊力を感じるからそっちに向かってる!
 何故か師匠と連絡が取れねぇんだ!
 お前、今 繊や神楽と一緒なんだな?
 とにかく今は【手】が欲しい! 一緒に来るよう話付けとけ!!」
『一緒って…えっ?』

寿星が反論する間も無く通話を終了させ、朔耶は追跡を再開した。
巨大な霊力の一つは馴染みが有る。恐らく今、十六夜は戦っている。
たった一人で、朔耶を護る為に。

「今行くからな、十六夜! 待ってろよ!!」

十六夜の物であろう霊力に導かれる様に
朔耶と使い魔達は目的地を目指して走り続けていた。
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