No. 010:烏

散文 100のお題

一羽の烏が蓮杖神社の上空を静かに飛んでいる。
境内の庭先から
リョウマは無言でその烏を見つめていた。

「どうしたの、リョウマ?」

宮司の姿で境内を掃除していた望央が
その様子に気付き、声を掛けた。

『あの鳥』
「鳥?」
『2日前にも飛んでた。
 その2日前も。その2日前も』
「一週間近く、
 同じ烏が上空を飛んでるって事?」
『そう』
「まるで【偵察】みたいね」
『偵察。その通り。
 あの烏、誰かの式神だ』
「式神…。成程ね。
 烏の使い手って誰か居たかしら?」
『十六夜なら知ってるかも』
「そうね。
 一度父さんに聞いてみよう」
『そう。その方が良い』
「いつもありがとうね、リョウマ!」
『望央の【兄】として、これ位当然!』

自慢気なその声と仕草に
望央は笑顔を綻ばせた。

* * * * * *

「よぅ、お勤め御苦労さん」

戻ってきた烏に労いの声を掛ける一人の男。
濃いサングラスに無精髭を伸ばし
煙草を吸いながら、烏を式紙の姿に戻す。

「結界が堅固で式神だけじゃ中が見えんな。
 宮司の神通力の高さか、それとも…」

男は口角を上げてニヒルに笑う。

「【玄武げんぶ】の助力ちから、か」

蓮杖神社が四神結界の一角を担っている事を
男は既に知っている。
そして、其処に住まう宮司一家。

「蓮杖 十六夜と八乙女 朔耶が
 陰陽鏡おんみょうきょうを手放した事迄は掴んだが、
 後継が誰なのかは
 まだ判明してないからな。
 引き続き、探る必要が有る」

彼は自身の左腰の辺りに目をやり、呟いた。

「なぁ、【村正むらまさ】?」
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