体がピクリとも動かない。
もう少し、眠っていても…良いかな?
凄く、良い匂いがするから。
安心出来る。この温もり……。
自分の胸元に顔を埋めて
熟睡している弦耶を引き剥がす事も出来ず
望央は硬直していた。
「望央。そろそろ時間だが」
なかなか姿を見せない後継者を心配して
十六夜が二階の望央の部屋へとやって来る。
「ちょっ…弦。
父さんが来ちゃうから起きて。
ねぇ、弦ってば」
焦る望央だが、弦耶は全く起きる気配が無い。
「望央。入るぞ」
やがて、部屋の引き戸がゆっくりと開かれた。
ベッドの上の有様を
十六夜は顔色一つ変えずに見下ろしている。
「ご…御免なさい、父さん。
直ぐに準備を……」
「望央は慌てずとも良い」
「え?」
そう言いながらも
十六夜は何かの印を結んでいる。
「父さん?」
「namaH samanta - buddhAnAM indrAya svAhA」
「ウッギャアーーーーーッ!!!」
どうやら背中に電気が流れたらしい。
弦耶は悲鳴を上げながら飛び起き
その勢いのままにベッドから転げ落ちた。
「おはよう、弦耶。
良い夢は見られたか?」
「お…おはよ…ござ…ます……。
夢…見れました……はい……」
「それなら良かった。
弦耶、折角だからお前も禊に参加しなさい」
「…へ?」
「今からでも作法を覚えておかんとな」
時計の針は間も無く午前4時を指す所だ。
「私は先に行って待っておる。
望央、弦耶。なるべく急いでな」
「はい、父さん」
「…はぁい」
『何で俺まで?』と云う
不満げな顔を向ける弦耶に対して
望央はクールにいなした。
「文句が有るなら、直接 父さんにどうぞ」
「…無理」