No. 011:みぞれ

散文 100のお題

「暑い…」

ランニングシャツの首元を
パタパタと手で仰ぎながら、
弦耶は上空を睨み付けた。
濃い色のサングラスを愛用している為か
一寸物騒な人物に見えるらしい。
人々がさり気無く距離を取っているのが
何となくだが伝わってくる。

「何か冷たいモンでも食いてぇなぁ」
「かき氷、もうやってるかな?」
「茶店なら有るんじゃねぇか?」
「一寸寄ってみる?
 通りのパーラーでも良いし、
 デパート内にも喫茶店在るし」
「何処でも良い。お前についてく」
「私がお店を選んでも良いの?」
「俺、所持金無ぇし」
「……」

弦耶は現金主義で
カード類は一切持っていない。
電子マネー等、以ての外。
そして、その現金ですら
多くても5000円程度…と云った有様である。

「これって、デートになるのかな?」

ふと、疑問を口にした望央だったが。

「ならんだろ」

呆気無く否定された。
それはそれで、少し哀しい。

「やっぱり?」
「現状確認は依頼の中に入ってるからな」
「…だよね」

デートだと、この場合
望央の奢りとなるのだろう。
仕事の場合だとすると…。

「後で請求しようかしら?」
「誰に?」
「この場合、請求先は
 仲介役さんだから…朔ちゃんだね」
「親父? 流石にそれは格好悪ぃだろ」
「毎回私にたかるのは格好悪くないんだ?」
「……」
「何?」
「…特権だろ、そんなの」
「えっ?」
「何でも無い」

小さ過ぎて聞き取れなかった弦耶の一言。
彼はそれを打ち消すかの様に呟いた。

「食いたかったなぁ~。
 霙味のかき氷」
「……食べに行くんでしょ? これから」
「お! じゃあ、会計は宜しくな!」
「…はいはい」
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)