「……」
望央を挟んで男二人が無言で見つめ合っている。
一人は鬼の形相の弦耶。
もう1人は、彼の父親である朔耶。
朔耶は薄い笑みを浮かべたままだ。
「何考えてやがる?
望央をこんな場所に引っ張り込んで」
「【こんな場所】って…お前の経営する店じゃん」
「俺は所詮【雇われ】だっての」
弦耶はそのまま望央に視線を動かした。
一瞬ではあるが、微かに左目が銀色に輝いている。
「
ノコノコと飲み屋に顔出すんじゃねぇよ」
「興味有ったんだもん。弦の勤め先」
「巫女さんが来る処じゃねぇって」
ムスッとしたまま
弦耶はカウンターの棚に手を伸ばす。
「カクテル一杯奢ってやるから
それ飲んだらとっとと帰れ」
「弦……」
「望央、気にする事無いからな。
弦の奴、照れてるだけだから」
「黙らっしゃい、クソ親父っ!!」
「カクテルって言ってたけど」
帰宅の途に就きながら
望央は朔耶に語り掛ける。
「全然酔わないよね?」
「そりゃ、酒を使ってなかったから。
望央の飲み物には」
「そうなの?」
「そう。【シンデレラ】は、な」
「凄く美味しかった!」
「又 弦に伝えてやってよ。
きっと喜ぶから」
「うん」
そう言って微笑みながら
望央は朔耶を静かに見つめた。
その横顔は確かに弦耶とよく似ている。
「やっぱり…【親子】なんだよね」
「望央もそう思う?」
彼女の心の中が見えているのだろうか。
不敵に笑う朔耶に
望央は思わず目を大きく見開いた。
「【彼女】がマスターの【
カウンターでマティーニを味わいながら
ワインレッドのドレスを着た女性客が笑みを浮かべる。
「からかってやるなよ」
「あら、少し位は良いじゃない?
私だって軽く嫉妬はするわよ」
「嫉妬してるんだ?」
「多少はね。
マスターは私のお気に入りなんだし」
「僕は違うんだ」
「顔面偏差値的にね~」
カウンター越しの女性客とボーイの会話。
弦耶は加わる事無く
黙々とカクテルグラスを磨いていた。
先程迄、望央が口を付けていたグラスだ。
「で、どう云う間柄なの?
マスターと彼女」
女性客は興味津々で質問を投げ掛けるが
弦耶は一向に相手にしない。
「もぅ!」
甘える様な声で抗議するも
そんな事は日常茶飯事なのか、
弦耶には全く効果が無いようだ。
閉店後。
客が誰も居ない店内で
静かに酒を流し込む弦耶に
ボーイがニヤリと笑みを浮かべた。
「…【経営者】が何でボーイやってんだか」
「良いじゃん。
こっちの方が気軽なんだよ」
「だからってなぁ…」
「なぁ、弦」
「?」
「望央ちゃんと身を固めるってんなら
後任の件は心配せんで
「してねぇ。それに、そっちの件は」
「まだ許されてないってか」
「あぁ」
「お前の親父さんと違って
彼女の親父さんはなかなか厳しいんだって?
確か蓮杖神社の宮司さんだってな」
「俺の師匠でもあるし、余計に」
「…条件、何だったっけ?
師匠越えだっけ?」
「いや、望央超え」
「はぁ? 望央ちゃんを超えるってか?
どう云う意味?」
「
「望央ちゃんの方が上なの?」
「今はそう云う判定を受けてる」
「へぇ~。人は見た目に因らない…」
「そう云う事だから
暫くはお前の期待に沿えそうにないぞ、亜斗武」
再度バーボンをグラスに注ごうとした弦耶の手を止め
ボーイ=
「今日はその辺で止めとけ。
【気】が乱れてるわ」
「急に同業者ぶるなよ。吃驚する」
「俺は退魔師じゃないもんね。
お前の遠い親戚には当たるけどさ」
「