No. 003:間

散文 100のお題

「……」
「……」

望央を挟んで男二人が無言で見つめ合っている。
一人は鬼の形相の弦耶。
もう1人は、彼の父親である朔耶。
朔耶は薄い笑みを浮かべたままだ。

「何考えてやがる?
 望央をこんな場所に引っ張り込んで」
「【こんな場所】って…お前の経営する店じゃん」
「俺は所詮【雇われ】だっての」

弦耶はそのまま望央に視線を動かした。
一瞬ではあるが、微かに左目が銀色に輝いている。

望央お前も。クソ親父に連れられて
 ノコノコと飲み屋に顔出すんじゃねぇよ」
「興味有ったんだもん。弦の勤め先」
「巫女さんが来る処じゃねぇって」

ムスッとしたまま
弦耶はカウンターの棚に手を伸ばす。

「カクテル一杯奢ってやるから
 それ飲んだらとっとと帰れ」
「弦……」
「望央、気にする事無いからな。
 弦の奴、照れてるだけだから」
「黙らっしゃい、クソ親父っ!!」

* * * * * *

「カクテルって言ってたけど」

帰宅の途に就きながら
望央は朔耶に語り掛ける。

「全然酔わないよね?」
「そりゃ、酒を使ってなかったから。
 望央の飲み物には」
「そうなの?」
「そう。【シンデレラ】は、な」
「凄く美味しかった!」
「又 弦に伝えてやってよ。
 きっと喜ぶから」
「うん」

そう言って微笑みながら
望央は朔耶を静かに見つめた。
その横顔は確かに弦耶とよく似ている。

「やっぱり…【親子】なんだよね」
「望央もそう思う?」

彼女の心の中が見えているのだろうか。
不敵に笑う朔耶に
望央は思わず目を大きく見開いた。

* * * * * *

「【彼女】がマスターの【い人】?」

カウンターでマティーニを味わいながら
ワインレッドのドレスを着た女性客が笑みを浮かべる。

「からかってやるなよ」
「あら、少し位は良いじゃない?
 私だって軽く嫉妬はするわよ」
「嫉妬してるんだ?」
「多少はね。
 マスターは私のお気に入りなんだし」
「僕は違うんだ」
「顔面偏差値的にね~」

カウンター越しの女性客とボーイの会話。
弦耶は加わる事無く
黙々とカクテルグラスを磨いていた。
先程迄、望央が口を付けていたグラスだ。

「で、どう云う間柄なの?
 マスターと彼女」

女性客は興味津々で質問を投げ掛けるが
弦耶は一向に相手にしない。

「もぅ!」

甘える様な声で抗議するも
そんな事は日常茶飯事なのか、
弦耶には全く効果が無いようだ。

* * * * * *

閉店後。
客が誰も居ない店内で
静かに酒を流し込む弦耶に
ボーイがニヤリと笑みを浮かべた。

「…【経営者】が何でボーイやってんだか」
「良いじゃん。
 こっちの方が気軽なんだよ」
「だからってなぁ…」

「なぁ、弦」
「?」
「望央ちゃんと身を固めるってんなら
 後任の件は心配せんでぇよ」
「してねぇ。それに、そっちの件は」
「まだ許されてないってか」
「あぁ」
「お前の親父さんと違って
 彼女の親父さんはなかなか厳しいんだって?
 確か蓮杖神社の宮司さんだってな」
「俺の師匠でもあるし、余計に」

「…条件、何だったっけ?
 師匠越えだっけ?」
「いや、望央超え」
「はぁ? 望央ちゃんを超えるってか?
 どう云う意味?」
本業アッチの方」
「望央ちゃんの方が上なの?」
「今はそう云う判定を受けてる」
「へぇ~。人は見た目に因らない…」
「そう云う事だから
 暫くはお前の期待に沿えそうにないぞ、亜斗武」

再度バーボンをグラスに注ごうとした弦耶の手を止め
ボーイ=たいら 亜斗武アトムは首を横に振った。

「今日はその辺で止めとけ。
 【気】が乱れてるわ」
「急に同業者ぶるなよ。吃驚する」
「俺は退魔師じゃないもんね。
 お前の遠い親戚には当たるけどさ」
平家なら近しい親戚だ、ボケ!」
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)