遠くから父の声がする。
居間だろうか?
掃除を終えた望央は足早に居間へと向かった。
「望央。
新聞のこの文言なのだがな」
「はいはい」
父、十六夜は外来語が苦手だ。
にも関わらず、関心は高い。
「えぇ~っと、γ線ね」
「何だ? 新しい路線の名前か?」
「違うわよ」
「では、何と?」
「私も詳しくは説明出来ないわ。
理系じゃないし」
「そうか」
「文系だったからね。学校が」
「相分かった。
その様な言葉があると云う事だけ
覚えておくとしよう」
「うん。そうしてちょうだい」
「カマセン、だったな」
「ガ・ン・マ・せ・ん」
最近、そういや踊れてない。
リズムに乗せて体を動かさないと
どうもイライラしやがる。
仕事明けにストリートで踊るのも良いが
よく職務質問を受けるのが気に掛かる。
「久々に踊りてぇなぁ」
「日舞?」
「じゃねえよ。
てか、何で日舞が出てくる?」
「乾月流、習ってなかったっけ?」
「
「一応、身には付いてるんだろ?」
「一応は…な」
「
「中学に上がる前迄。
だから…2年位、か」
「小5~6年って所か」
「あぁ」
「へぇ~」
「何だよ、急に?」
「いやぁさ、話には出てくるのよ。
乾月さんってどんな人なのかね~って」
「何処で?」
「平家の寄り合いで」
「……」
「俺は面識無いからさ。
「亜斗武…。
俺の
【弓ちゃん】はねぇだろ」
「本人がそう呼べって言ってんだし
それで良いじゃん」
「いい歳して【弓ちゃん】はねぇよな。
乙女か」
その直後。
棚の上に置かれていたトレイが
弦耶の頭にクリーンヒットした。
「! 痛ぇーっ!!」
「聞こえてたんじゃないの?
弓ちゃんに」
「…そんな莫迦な」