No. 014:あなたのいなくなった日

散文 100のお題

「説明してもらおうか?」

鬼の形相で蓮杖神社に現れた弦耶の左目は
【陰の陰陽鏡】が銀色に光り輝いていた。

「その様子じゃと…望央と。
 ……成程。
 では、朔耶と神楽にも同席を求めるか」

十六夜はまるで動じる事無く
目で千里に合図を送った。

* * * * * *

朔耶・神楽夫婦が姿を見せると
弦耶の怒りに益々火が点いたらしく
彼はヒートアップして捲し立てた。

「どう云う事なんだよ、これはっ?!
 俺達は何も聞かされてねぇぞっ!!
 何でこんな所に【陰陽鏡】が
 貼り付いてんだよっ?!
 そもそもコレは親父達のモンだろうがっ!!」
「【陰陽鏡】は誰の所有物でもない。
 偶々 前の契約者が私達だったと云う事」
「てか、お前…望央を『食った』のか?
 あの、昨日誕生日だったよな。
 二十歳になった途端に手を出すかね、普通?」

余計な一言を。
十六夜がそう嗜めようとする直前に
弦耶は朔耶に殴り掛かっていた。
勿論、黙って殴られている程
朔耶も大人ではなく。

「親子と云うよりも…
 年の離れた兄弟じゃな、これでは」

十六夜は心底呆れ返っている。

「済みません、十六夜さん。
 最近、毎回こんな有様で。
 反抗期、なんですかね?」
「弦耶は当に成人しておるのにか?」
「そうなんですけど」
「それ以前に、朔耶がのぅ…」

父親が息子と同じレベルで
喧嘩をしてどうする?と
十六夜は言いたいのだろう。
それは神楽も同じ考えだった様で
静かに頷いている。

それ迄黙って様子を見ていた千里だったが
突然鳴り出したスマートフォンの画面を見て声を上げた。

「はい! 痴話喧嘩はその辺にして!
 弦ちゃん!」
「…何?」
「…望央からよ」

千里はスピーカーをONにした状態で
弦耶にスマートフォンを渡した。

「…はい」
『弦…? 何処…?
 今、何処に居るの…?』

電話の向こうから望央の声。
泣いているのだろう。
声が珍しく枯れている。

「何処って、今 蓮杖じ…」
『何処捜しても弦が居ないの…。
 何処行っちゃったの…?
 私の事、嫌いになっちゃったの…?』

眠っている彼女を起こすのは忍びないと
彼女に憑き従う三体の使い魔達に
行き先はちゃんと告げて来た筈なのだが。
今、誰と話しているのかすら
望央は判らなくなっている。

「…話は又、今度聞く」

弦耶は千里にスマートフォンを返すと
振り返る事無くその場を後にした。

「…次回だってさ、十六夜。イテテ…」
「少しは己の歳を考える事だな、朔耶よ」

畳に横たわる朔耶に手を差し伸べ
十六夜は苦笑を浮かべていた。

「共依存…かも知れんが
 あの二人が継承したのであれば
 寧ろその方が良いのかもな」
「…だろうね」

* * * * * *

弦耶。

貴方が居なくなった日は
それから少しずつ増えていったよね。
帰って来る度に体も心も傷だらけになって。

でも、必ず笑顔で『ただいま』って。

あの頃と今の貴方は
どれ位変わったんだろう?
それとも…何も変わってないの?
変わったのは…
逆に、私…なんだろうか?
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)