No. 016:心 音

散文 100のお題

身体の奥の、繋がっている部分から
一定のリズムが伝わってくる。
彼の胸板に耳を当てると
心音が聞こえてくる。
一定の、同じリズムを刻んでる。
まるで彼の全身が
楽器の様に音色を奏でているかの様で…。

「…望央」

弦耶の声が、甘く響く。
名前を呼ばれているだけなのに。
身も心もとろけそうになってしまう。

「やっぱり…お前じゃないと駄目だ」
「…こんな時に、他の女性ヒトと比べてるの?」
「比べようが無い。
 お前の足元にも及ばん」
「何だか…凄い台詞を言われている様な気がするわ……」
「そう?」

普通を装うつもりだったのに、恥ずかしい。
そう思った瞬間、不意に弦耶は苦笑を浮かべた。

「どうしたの?」
「あんまり締め付けるなって。
 出すぞ?」
「…いつも遠慮なく出しちゃってるでしょ?」
「そうだっけ?」
「そうよ…。
 そう言えば、私とする時って
 いつもアレ全然使わないのね?」
「アレ?」
「…単語、言わせようとしてるでしょ?
 言わないわよ。
 恥ずかしいんだから…」
「いや。別に」
「なら…良いんだけど」
「本命相手にゴムなんか使わんよ」

呆気無く言い切る弦耶に呆れてしまう。
どうしてこんな奴なのにモテるんだろ?

「弦…。少しはね。
 女性の立場ってものを」
「使った方が良いのか? コンドーム」
「あ…。えぇ…っと」
「お前がそうして欲しいってんなら
 次からはそうするけど」
「……」

即答出来ない聞き方してくるんだから。
私がそう切り出したのは
妊娠に対する心配が有ったから。
確かに病気も怖いけど。
弦耶が将来の事、妊娠や出産を
何処迄 真剣に考えてくれているかが
全然見えてこないから。

「…欲しいんだけどさ」
「弦?」
「難しいんだよな、【まだ】」
「?」
「独り言」

弦耶の発言の意味が理解出来ず
私はそのまま彼を
ジッと見つめているしか出来なかった。
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)