No. 018:私の欠片

散文 100のお題

何事も無い日々が続く中
十六夜は朔耶と共に
【村正】の行方を思案していた。

「いずれ その持ち主は
 この地へと導かれて来よう。
 どの様な目的があるにせよ」
「あぁ。
 しかし、あの鳴神がそう簡単に
 くたばっちまったとは
 考えられねぇんだけど」
「それには私も同意する」
「それに、さ。
 望央がこの事を知って
 ショックを受けなきゃいいんだけど」
「…」
「随分と気に入ってたろ?
 鳴神の事」
「…そうじゃな」

二人の戦友である鳴神なるかみ のぞむ
あの戦いの後、所帯を持たず一人で生きていく事を選んだ。
それでも望央や弦耶、舞耶には
優しく頼りになる小父おじさんで在り続けてくれた。
朔耶はそんな鳴神の一面を見て初めて、厳格な彼が
子供好きな優しい一面を持ち合わせている事に
気付いたのだった。

「今、誰が【村正】を所持しているのか。
 鳴神は今、何処に居るのか」
「この辺が解決しねぇとな」
「うむ…」

二人は顔を見合わせ、深く頷いた。

* * * * * *

開店準備を行っていた弦耶の前に現れたのは
この辺りでは見掛けない、意外な人物だった。

「乾月先生?」
「久しぶりだね、弦。
 又 大きくなって」
「…もう成長は止まってる筈なんだけど」
「まぁまぁ。
 一寸お前に話が有るんだけど
 店内、良いかな?」
「…どうぞ」

特に断る理由も無い弦耶は
そのまま乾月を店内へと案内した。

* * * * * *

「鳴神さんが…?」

乾月は弦耶に
鳴神が行方不明である事、
彼の相棒である【村正】が
何者かの手に奪われた事を告げた。
流石にショックを隠し切れず
弦耶は表情を強張らせ、息を呑んだ。

「お前にとっての【村雨】・【兼元かねもと】と同様
 【村正】は鳴神の半身とでも呼ぶべき存在。
 その【村正】が彼の手元を離れた事は
 由々しき事実と受け取ってもいい」
「その事、望央は…」
「まだ告げてはいない」
「なら、そのまま隠してくれよ。
 彼奴アイツ、鳴神さんの事…」
「解っている」

弦耶の言いたい事は乾月も痛感している。
望央は優し過ぎる。
それ故に傷付きやすい。
そんな彼女を弦耶は何としても護りたい。

「弦耶」
「何?」
「もし【村正】を見付けたら
 私達に直ぐ報告を入れる事。
 良いね?」
「良いけど…」
「一人で戦おうとするんじゃないよ」
「……」

弦耶の決意を見抜いていたのだろう。
乾月はニヤリと笑みを浮かべた。
その勢いに飲まれたのか
弦耶は唖然としたまま
黙って乾月を見つめ、頷いた。
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)