No. 023:相容れないモノ

散文 100のお題

「結界の濃度が強くなった様だな」

男は視線険しく蓮杖神社の上空を見つめる。

「迂闊に此奴コイツを飛ばせなくなった」

胸元のポケットに手をやり
フッと溜息を吐く。

「まぁ、良い。
 内部の情報は『見えて』いるんだ。
 焦る事はあるまい。
 それに……」

男の口元が不意に緩む。

「【陰陽鏡】の所在も掴めた事だし。
 成程な。
 自身の子供に継承させるとは…
 なかなか粋な事をする」

何かの気配を感じたのか。
男はスッと立ち上がると
霞の様に気配を消してその場を去った。

* * * * * *

男の察知した気配。
それは主の制御範囲を超えて活動していた
使い魔のムサシであった。

あの男の気配。懐かしい匂いがする

男の後を追う真似はしなかった。
小さくなる男の背中を凝視し
その映像を克明に記憶する。
今の自分ムサシの、最大の役目。

動き出した様だ。千年の遺恨

大きく翼を広げ、ムサシは天を仰いだ。

* * * * * *

「それを俺に調べろって?」

突然掛かってきた電話。
弦耶は困った表情を浮かべながら
返答を続けている。

「はぁ……。
 まぁ、『やれ』って言われたんならやりますけどね」

断る口実を見付けようとしたものの
最初から勝ち目が無いのは解っている。
電話の相手は納得したのか
暫くしてから通話が切れた。

「今更 藤原家の歴史を学び直せって、さぁ…。
 八乙女家や平家、賀茂家なら血筋だし解るけど。
 何故に『相容れない存在』と言われる藤原家を?」

とは言え、承服してしまったのだから
調べなければいけない事だけは解る。

「久々に顔を出すかな。
 懐かしき母校にさ」

やれやれと肩を竦めながら
弦耶は出掛ける準備を始める。
外はそろそろクリスマス寒波が訪れる頃。
随分と風が冷えてきた。

「亜斗武には…開店を遅らせる連絡も入れたし。
 望央…は、まぁ良いか。今回は別件だ」

本能が、そう告げた。
望央には知らせるな、と。
何故そう感じたのかは分からない。
ただ、この【勘】は
子供の頃から一度も外れた事が無い。
それ程に正確で、
それ故に弦耶も信頼している。

「謎掛けが解けてからでも遅くねぇ」

そんな独り言で不安を飲み込むと
弦耶は勢いよく愛車バイクまたがった。
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)