覚 醒

現在編・3

『美雨…』

丈は漸く自分の正体を思い出した。
過去の記憶が目覚めたのである。

『彼女を…守らなければ…』

その思いが全身に力を与える。
瀕死に近い状態からもち直し、
彼は両腕を剣の様に前面に押し出した。

「ぐふっ!!」

彼の首を絞めていた男の口から漏れる声と多量の血液。

丈の両腕は男の体を貫通し、
そのまま切り裂いていた。

「?!」

驚いたのは他の二人だ。

「やはり…化け物だ」

返り血を全身に浴びた彼の影。
その背中に浮かぶ4枚の羽。

「…るさねぇぞ」

母と妹の無念が彼を更に凶暴化させる。

「絶対に、お前等だけは…」

ゆっくりと、しかし力強い足取りで
丈は距離を詰めて行く。

右腕を空に伸ばす。
壁に映った手の影は真っ直ぐ男の頭部に迫り
そのまま握り潰した。
直に触れずとも絶命する。

「残りは…」

狂気に満ちた眼差しが最後の男を捕らえる。
だが、男は傍らから銃を取り出して構えた。

「コレは化け物用の弾丸が篭められた特殊銃だ。
 そもそも、お前の母親と妹が死んだのは
 お前が化け物だからなんだよ!!」
「化け物?」
「素手で大の男二人を倒せるものか!
 化け物め!!」

その言葉が丈の動きに歯止めを掛けた。

「俺の所為で…?」

二人が死んだのは、自分の所為?

倒れ込む母と妹の亡骸を目にし、
丈の動きが完全に止まった。

* * * * * *

「くたばれ!」

無抵抗の丈に銃口が向く。

「!!」

反応したがもう遅い。
丈は今度こそ覚悟を決めた。

ズガーン

銃声は響いたが、
何故か丈は傷一つ負わなかった。

「?」
「ふ、間に合ったか」

拳銃を構え、サングラスをした黒ずくめの男が微笑む。

銃声はその男の物だったらしい。

「…誰、だ?」
「味方だ」
「味方…?」

誰が敵で誰が味方なのか判らない。
しかし、この男の声には何故か聞き覚えがあった。

「アンタは…」

丈の意識は其処で途切れた。

倒れ込む丈の体をしっかりと抱き抱える男。

「間に合わなくて、済まなかった…」

彼はそう言って、丈を抱き寄せた。

「一時的だがプロテクトを掛ける。
 せめてもの償いだ…」

彼は丈の額に指を触れ、何かを呟いた。
言葉を発しているらしいが、
何を言っているのか聞き取れない。

淡い光が丈を包む。
そして静かに彼の体の中に浸透して行った。

「コレでこの事件は迷宮入りだ。
 尤も、警察には厄介になりたくないが…」

彼はそう言うと、辺りを見渡した。

「それらしく演出するか。
 雑魚の処分をするしかないな…」

サングラスの奥の瞳は冷静だった。
Home Index ←Back Next→