過去と現在

異世界編・1-12

「思い出しますね…」

モニターを静かに見つめながら
漣は懐かしげに語り出した。

「僕は…自分が何者で在るのかも知らず
 人間だと思って生きて来た。
 村の人も、疑う事すらしなかった」
「漣…」
「日常が、永遠に続くと信じていました。
 何の疑いも無く…」

不意に浮かべた、泣き出しそうな笑み。
漣の脳裏に過ぎる、【瞬間】の映像。

「何の前触れも無く奪われた。
 前兆も、予感も無かった。
 あの日…本当なら僕も、消えていた……」

彼は1歳を過ぎた頃、
住んでいた村をパラサイダーに襲われた。
正に突然の嵐であった。

「雨ばかり降る世界だけど…
 それでも、平和だと感じていました。
 奪われてからは一層…
 その思いを強く感じるんです」
「…そうか」
「はい……」

漣はその時に自身の能力に覚醒した。
己の能力を戦闘に使用したのは
後にも先にもあの一度だけだ。

「僕は今でも戦闘が苦手です。
 自分の武器は所有してるけど、
 いざと云う時は手が震えます」
「…それで良い。
 それが【普通の感覚】だよ」
「団長…」

「漣。お前にはお前の戦い方が有る。
 過去の文献を紐解き、クリアライドを生み出した。
 あの鉱石の存在で、我々の戦力は大幅に上がった。
 パラサイダーに匹敵する、いや…それ以上に」
「出来れば…それを違う方面で生かしたいんです。
 いつか、戦闘が無くなったら…」
「必ず来る。そう、信じてるよ…」
「団長…」
「ん?」
「…有難う御座います」

漣の言葉は、初めて会った時と何ら変わらない。
追っ手に襲われていた彼を助け上げた時も
優しい笑顔を浮かべて、答えてくれた。

「有難う御座います」と。

* * * * * *

「その、団長…?」

漣は何か尋ね難そうにしている。
恐らくは丈の事を気にしているのだろう。

「どうした?」
「…やっぱり、強引でした…ね」
「ん?」
「彼をこの時代に呼んだ事…」

確かに、提案したのは彼だ。
だが…それを命じたのは自分。
漣に罪は無い。

罪が有るとしたらそれは…自分に、だろう。

「気にするな。
 丈の存在がパラサイダーに洩れた以上
 あの世界で生存する事は困難だ」
「…ですね」
「ならば、合流するのが一番の得策だ」
「そうですね…」

漣は表情を引き締め、
新たに恵一に問い掛けた。

「あの時代に飛んだパラサイダー達は…?」
「時代の流れに淘汰されるだろう」
「時代の、流れ…」
「元々使い捨ての兵士を送り込んでいるのだ。
 奴等自身も回収する気は見せていない。
 少数では流石に騒ぎも起こせまい」
「そうなんですね…」

「人を殺せば大騒ぎになる時代だ。
 此処はと違う」
「まるで…天国の様ですね」
「そう思うか?」
「少なくとも、丈を見ていると…」

「天使みたいだ」と漣は付け加えた。
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