少 女

異世界編・1-13

丈は部屋の扉をロックし、
閉じ篭ってしまった。

ショックだった。

父の正体よりも
自分の生まれた背景が。
そして、犠牲になった三人の事が。

夢に見る。
母と妹の夢。

『どうしてこんな目に遭わなきゃ行けないの?』

『貴方の所為で私達は…』

そうやって暗闇で責め続けられる夢。

「はは…」

乾いた声で嘲笑する。
涙が頬を伝って落ちた。

「何で…」

丈は再び俯く。
絶望した声の音。

「何で俺は生まれて来たんだ?
 何の為に、俺は…?」

自問自答を繰り返す。

解らなかった。

父の思いも。
それを受け入れた産みの母の思いも。
再婚した母の思いも。

ただ、哀しかった。

「俺…」

どうすれば良いのかすら、
今の丈には見えていなかった。

* * * * * *

どれ位時間が経っただろうか。

ベッドに顔を埋め、
泣いたまま眠っていた。

いつの間にか微かな月の明かりが
部屋に差し込んでいた。

「夜…」

寂しさが一層哀しさを強める。

今は只、疾風に会いたかった。
彼に触れて、抱き締めて欲しかった。
それが叶わないと解っていても。

「…?」

そんな彼の耳に再びあの歌が聞こえて来た。
心を癒すかの様に。
優しく、語り掛けるかの様に。

「…君は……?」
『誰?』

鈴の様な声が脳裏に返って来る。
丈は驚いた。

「俺の声、聞こえ…る?」
『よく聞こえるわ』
「君は…」
『貴方、私の声 聞こえるのね。
 歌、聴いてくれてるのね』

声は少女のものだった。
嬉しそうに語り掛けて来る。

「綺麗な歌だね」
『有難う。
 貴方、この世界の人じゃないの?』
「どうして?」
『歌、知ってるから』
「…そうだったね。
 この時代に【歌】は存在しないって」

『存在はしてるわ。
 只、忘れてしまっているだけ。
 だから私は歌うの。
 皆が思い出す様に』
「そうなんだ…」
『貴方は優しい人ね。
 心が伝わってくる…』
「そんな事無いよ。俺は…」

そう言い掛け、夢を思い出す。
母と妹に責められる夢を。

『自分を責めないで…』

少女の声はそっと告げた。
その声に励まされている。

『貴方は優し過ぎる。
 だから誰よりも傷付いてしまうのね…』
「違う。俺は…」
『違わない。
 だって私の歌、聴こえるもの』
「……」

心の中を全て晒している様な気分だった。
誰かに言って欲しかった。

『貴方の所為じゃない。
 だからそんなに苦しまないで…』

彼女は望み通りの言葉をくれた。
涙がまた一筋流れる。

『名前、教えて…』

彼女が優しく聞いてくる。

『貴方とこうして出会えたのも何かの縁だし。
 聞きたい、貴方の名前…』
「丈。門田…丈……」
『丈…ね。私は…』

其処で脳裏に物凄いノイズが入った。
聞き取れない。

「頭が…割れる……」
『丈…じょ、う……』

彼女の声が薄れていく。
頭痛がノイズと共に激しく響く。

「待って、くれ…」

消え行く彼女の声を
懸命に彼は追った。

意識を失う迄、
空を掴む様に腕を伸ばして。
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