強 さ

異世界編・1-14

少女との束の間の語らいは
丈に勇気をくれた。
涙をそっと拭き、
ゆっくりとベッドから立ち上がる。

「…彼女に、会えるかな」

いつか会いたい。
会って、話したい事がある。

自分を救ってくれた少女の面影を
彼は思い描いていた。

その時。

ドンドン

「丈! 丈っ!!」

疾風である。

帰って来て詳細を
漣から聞いたのか。
ドアを必死に叩いている。

丈は慌ててドアのロックを外した。

「丈!!」

開けた瞬間 飛び込んできた疾風に
体を抱き締められた。
息が詰まる程強く。

* * * * * *

「丈…済まない……」
「?」
「またお前を苦しめた。
 俺は…」
「もう…大丈夫だよ」
「しかし…」
「疾風さんの所為じゃない。
 元はと言えば俺が…」
「それだけは絶対に違う」

自分の所為だから、という言葉を
疾風は敢えて止めた。

言わせない。
その思いが伝わってくる。

「嫌な思いさせたな、丈…」
「疾風さん…」
「お前が居てくれて初めて俺は戦える。
 お前が生まれて来たこの世界を守る事が
 俺の生きる証となる。
 だから…」
「……」
「生まれて来るんじゃなかったと、
 言わないでくれ。
 俺の為にも…」
「疾風さん……」
「頼む…丈……」

抱き締め返す手に力を加える。
それがせめてもの気持ち。
彼の想いに対する返事だった。

* * * * * *

「え?」

その第一声に驚いたのは漣だった。

「強くなりたいんだ。
 トレーニングシステムが有るって
 疾風さんから聞いた」
「有る事は有るよ。
 ヴァーチャルシステムだけど
 攻撃を受ければダメージは当然受ける。
 擬似実戦型のね」
「じゃあそれを…」
「良いけど、どうして突然…?」
「俺も護りたい者が出来たから」

それが誰なのかはまだ漠然としているけれど。

丈の中に目標が出来た。
だからこそ【強く】なりたい。
強く生きたい。

漣は静かに頷いた。

「解ったよ。
 君の生態データも収集保存してある。
 今からでも使える様に
 プログラムを弄っておくから」
「有難う、漣さん」

丈は深々と頭を下げた。

「やっぱり君も…戦士、なんだね」
「?」
「独り言」

そう呟く漣の瞳が見せた一瞬の悲しみを
丈が気付く事は無かった。
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