丈に勇気をくれた。
涙をそっと拭き、
ゆっくりとベッドから立ち上がる。
「…彼女に、会えるかな」
いつか会いたい。
会って、話したい事がある。
自分を救ってくれた少女の面影を
彼は思い描いていた。
その時。
ドンドン
「丈! 丈っ!!」
疾風である。
帰って来て詳細を
漣から聞いたのか。
ドアを必死に叩いている。
丈は慌ててドアのロックを外した。
「丈!!」
開けた瞬間 飛び込んできた疾風に
体を抱き締められた。
息が詰まる程強く。
「丈…済まない……」
「?」
「またお前を苦しめた。
俺は…」
「もう…大丈夫だよ」
「しかし…」
「疾風さんの所為じゃない。
元はと言えば俺が…」
「それだけは絶対に違う」
自分の所為だから、という言葉を
疾風は敢えて止めた。
言わせない。
その思いが伝わってくる。
「嫌な思いさせたな、丈…」
「疾風さん…」
「お前が居てくれて初めて俺は戦える。
お前が生まれて来たこの世界を守る事が
俺の生きる証となる。
だから…」
「……」
「生まれて来るんじゃなかったと、
言わないでくれ。
俺の為にも…」
「疾風さん……」
「頼む…丈……」
抱き締め返す手に力を加える。
それがせめてもの気持ち。
彼の想いに対する返事だった。
「え?」
その第一声に驚いたのは漣だった。
「強くなりたいんだ。
トレーニングシステムが有るって
疾風さんから聞いた」
「有る事は有るよ。
ヴァーチャルシステムだけど
攻撃を受ければダメージは当然受ける。
擬似実戦型のね」
「じゃあそれを…」
「良いけど、どうして突然…?」
「俺も護りたい者が出来たから」
それが誰なのかはまだ漠然としているけれど。
丈の中に目標が出来た。
だからこそ【強く】なりたい。
強く生きたい。
漣は静かに頷いた。
「解ったよ。
君の生態データも収集保存してある。
今からでも使える様に
プログラムを弄っておくから」
「有難う、漣さん」
丈は深々と頭を下げた。
「やっぱり君も…戦士、なんだね」
「?」
「独り言」
そう呟く漣の瞳が見せた一瞬の悲しみを
丈が気付く事は無かった。