丈の能力

異世界編・1-15

スコープと軽いプロテクターを着けた状態で
丈は或る暗室へと入った。

『丈。君、何か特技は有る?』
マイク越しに漣の声が聞こえる。

「格闘技、かな」
『格闘…ねぇ。例えば?』
「空手と剣道。後は…」
『ケンドウ…ね。一寸待ってて』

漣は素早くキーボードを叩く。
まるで音楽を奏でるかの様に
その指は非常に滑らかだ。

『へぇ、これがケンドウか。
 じゃあ武器は…』

声と共に忙しなく動く指。
やがて丈の目の前に
片手剣が現れる。

『それ、使ってみて』
「この剣を?」
『そう。君の武器を作らないといけないから
 その研究も兼ねて』
「解った」

剣を掴んでみる。
不思議と手に馴染んだ。

『じゃあ…スタートするよ』

漣の声に、丈は静かに頷いた。

* * * * * *

スコープ越しに人の影が見える。
だが、何かが違う。

「パラサイダー…」

そう呟くと、丈は影に向かって突進した。

傷付く事を恐れない
若々しく雄々しい姿。
剣が風の様に流れる。

一体、そしてまた一体。
鮮やかに丈は敵を蹴散らしていく。
器用に手足を動かし、
蹴りを食らわしていく。

「へぇ…レベルCを軽くクリアか」
「どんな感じだ?」
「え、疾風? それに団長…」
「レベルC。初心者にしてはキツいな」
「丈は格闘技を一通り学んでいる。
 レベルAまで上げてくれ」
「え、Aですか?」
「そうだ」
「…解りました」

調整レベルをAに上げる漣。
敵の動きが急激に速く、
そして防御力が格段に硬くなっている。

「?!」

丈の動きが一瞬止まった。
敵の動きを心眼で追っているのだ。
スコープを外し、耳を澄ませる。

「丈…」

疾風の声は丈に届いていない。
心配そうに疾風はモニターを見守っていた。

* * * * * *

目を閉じたまま丈は相手の動きを追っていた。
全身で感じ取る事が出来る。
若いながらも柔術の有段者である彼は
いつの間にか闘いと云う物を身に付けていた様だ。

動きの速さ、トリッキーさに騙される事無く
剣を縦横無尽に振り上げる。
レベルAでも彼の強さは証明された。

「丈…」

安心したのか、
疾風は優しい声で彼の名を呼ぶ。

「へぇ…凄いや」
「……」

恵一も納得した様だった。

子供の頃から彼に
柔術や格闘技を身に付けさせたのは
この時の為だったのだから。
流れるような動きも、
静かに敵を見抜く目も
幼少時代から培われたもの。
それを実戦で見せただけの事。

「クリアだよ、丈。
 レベルAも難無く終了」

マイクを通じて漣は
トレーニングの終了を告げる。

『えぇ、もう?
 随分と呆気無かったな…』

モニター越しに不満げな声の丈。
戦い足りないのか。

「最初から飛ばさない。
 無理は禁物」
『トレーニングなら平気だよ。
 俺、体を鍛えるのは好きだから』
「だ~め! 僕の許可無く使わせないからね」
『ちぇっ!』

つまらなさそうにスコープを拾い上げ、
丈は無邪気に笑って見せた。
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