轟の挑戦

異世界編・1-16

「へぇ~、レベルAクリアか」

轟は興味深そうに丈のデータを見ていた。

「そうなんだよ。
 驚いたでしょ?」
「生身の戦い向きだな、こいつ」
「轟と疾風の間ってとこだね」
「一度手合わせしてみてぇな…」
「…えっ?」

漣の顔が徐々に青褪める。

「轟、又 君の悪い癖…出た?」
「はぁ?」
「彼に怪我させたら…
 疾風がキレるよ」
「させないって。
 ちゃんと手加減するからさ」
「…本当に?」
「何なら団長に話、付けて来るわ」
「ト…轟っ?!」

漣の制止を無視して
轟は会議室へと向かって行った。

「僕、知らないモンね」

漣はそう言うと深い溜息を吐き、
頭を抱え込んでしまった。

* * * * * *

「手合わせ?」
「はい。是非御子息と」
「【丈】と呼べば良い。
 あれもお前達の仲間の一人だ」
「じゃあ…」
「私は構わない。
 実戦と云う物を教えてやってくれ」
「解りました!!」

轟は実に嬉しそうな様子で一礼すると
会議室を後にした。

「…さて」

恵一はモニターに資料を表示し、
一息吐いた。

「丈は何処まで成長を見せてくれるかな。
 アイツもいずれは戦地に出なければならない。
 疾風では頭から手を抜くからな。
 まるで訓練にはならないだろう。
 轟はその点【手加減が出来ない】から
 丈も本気を出さざるを得ん…」

恵一は轟の不器用さを知っている。
その上で敢えて手合わせを承諾した。
父としてではなく、上司として。
司令官として。

「なぁ…」

亡き妻達に彼は語り掛ける。

「私は、非情な男だろうか。
 ただ、あの子に生きてもらいたい。
 それだけなのだがな…」

妻達の幻は優しく彼に微笑みかけていた。

* * * * * *

「現在揃っているのはこれだけか」

黒いロングコートが靡く。
広い室内。
大モニターを前に、男は静かにそう呟いた。

「戦場に出るのはセイリュウとビャッコだけですね。
 ゲンブの姿は確認出来ません」

答えたのは幼い顔立ちの男だった。

「じゃあ誘き出せば良いじゃない、ダイヤ」
「なら君がすれば、ハート?」
「私が? 嫌よ、面倒臭い」
「静かに」

男の声に、ダイヤとハートは口を噤んだ。

「レジスタンスリーダーは
 カドタ ケイイチ、だったな?」
「はい」
「奴も亜種か?」
「いえ、そのような情報は得られていません」
「人間か」
「だと思われます」
「…成程」

男は静かに頷いた。

「亜種を何としても抑えなければならない。
 その為にも美雨が必要だ。
 美雨の行方は?」
「これも依然として掴めていません」
「使えんな」
「申し訳ありません…」

黙ってスペードは頭を下げた。

「ダイヤ、ハートは引き続き亜種を。
 スペードは美雨を追え。
 良いな?」
「総帥、クラブは…」
「奴は奴の仕事があるまで待機している。
 情報収集には向かん」
「了解…しました」

スペードは一礼すると部屋を後にした。
続けてダイヤ、ハートも退席する。

「……」

一人残ったのは濃いサングラスを掛けた男。
クラブである。

「どう思う、クラブ?」
「…詰めが甘いですね」
「そうか…」

仲間に対しても冷静な発言に
男…いや、パラサイダー総帥は
満足そうに微笑んだ。
Home Index ←Back Next→