真 意

異世界編・1-18

セルファーの中で酸素マスクを付け、
丈は静かに眠っている様だった。

漣はモニターを凝視し、
丈の具合を確認している。

「…やっぱり肋骨折れてるね。
 プロテクターを着用してても3本か…」
「……」
「疾風、此処で煙草は控えてくれる?
 機器に影響出ると拙いから」
「…外に出てる」

心配なのは解っている。
その背中が余りにも哀しそうで
漣は少し言い過ぎたかなと反省した。

「丈…焦っちゃ駄目なんだよ。
 君の体はまだこの世界に適応してない」

眠る丈に対し、漣は静かに声を掛ける。

「こんなパターン、初めてだ。
 どうしてだろう…。
 体だけが適応出来てないなんて。
 それでも活動出来るって…」

漣は気付かなかったが、
この時、微かに丈の額の一部が輝いていた。

* * * * * *

「す、済みませんでした 団長っ!!」

一方、此方は会議室。

轟は自分の失態と、
恵一にひたすら詫びている最中だった。

「いや、油断した丈にも非がある。
 お前の所為じゃないよ、轟」
「しかし…」
「戦場では油断をすれば即【死】が待つ。
 これでアイツも身を以って知っただろう。
 【戦い】と云うモノをな…」
「団長…」

二人の遣り取りを疾風は外で聞いていた。
だが、中に入ろうとはせずに
彼は黙って自室へと向かった。

燻らす煙草の煙が
いつもより酷く不味く感じた。

「丈…」

彼に課せられた宿命は何処まで過酷なのか。
それはよく解っているつもりだ。

だが、いつもそうだ。
肝心な時ほど自分は無力で
彼を助ける事が出来ない。
それが堪らなく切ない。
誰よりも愛しているからこそ。

「本当は…」

戦士になどなって欲しくはなかった。
それが、疾風の本心だった。

* * * * * *

「目覚めた様ですね」

クラブがそっと声を掛ける。

「あぁ…」
「名前は…丈、でしたか」
「……」
「総帥?」

「奴等には【スザク】と伝えておけ」
「宜しいので?」
「構わん…。
 スザクの件はクラブ、お前に一任する。
 …殺すな」
「解りました。死守致します」

クラブは黙って一礼した。
彼は何も聞かない。
忠実に総帥の言葉に従う。

「早く…此処に連れて来てくれ。
 手遅れになる前にな」
「はい…」

総帥とクラブの密談は其処で終了した。
彼が何を考えているのか、
その真意を知る者は誰も居ない。
そう、クラブ以外は。

モニターには丈の生体反応と思われるグラフが
一秒ごとに表示されていた。
それを総帥は黙って見つめている。
何か言いたげな、そんな眼差しで。
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