丈は静かに眠っている様だった。
漣はモニターを凝視し、
丈の具合を確認している。
「…やっぱり肋骨折れてるね。
プロテクターを着用してても3本か…」
「……」
「疾風、此処で煙草は控えてくれる?
機器に影響出ると拙いから」
「…外に出てる」
心配なのは解っている。
その背中が余りにも哀しそうで
漣は少し言い過ぎたかなと反省した。
「丈…焦っちゃ駄目なんだよ。
君の体はまだこの世界に適応してない」
眠る丈に対し、漣は静かに声を掛ける。
「こんなパターン、初めてだ。
どうしてだろう…。
体だけが適応出来てないなんて。
それでも活動出来るって…」
漣は気付かなかったが、
この時、微かに丈の額の一部が輝いていた。
「す、済みませんでした 団長っ!!」
一方、此方は会議室。
轟は自分の失態と、
恵一にひたすら詫びている最中だった。
「いや、油断した丈にも非がある。
お前の所為じゃないよ、轟」
「しかし…」
「戦場では油断をすれば即【死】が待つ。
これでアイツも身を以って知っただろう。
【戦い】と云うモノをな…」
「団長…」
二人の遣り取りを疾風は外で聞いていた。
だが、中に入ろうとはせずに
彼は黙って自室へと向かった。
燻らす煙草の煙が
いつもより酷く不味く感じた。
「丈…」
彼に課せられた宿命は何処まで過酷なのか。
それはよく解っているつもりだ。
だが、いつもそうだ。
肝心な時ほど自分は無力で
彼を助ける事が出来ない。
それが堪らなく切ない。
誰よりも愛しているからこそ。
「本当は…」
戦士になどなって欲しくはなかった。
それが、疾風の本心だった。
「目覚めた様ですね」
クラブがそっと声を掛ける。
「あぁ…」
「名前は…丈、でしたか」
「……」
「総帥?」
「奴等には【スザク】と伝えておけ」
「宜しいので?」
「構わん…。
スザクの件はクラブ、お前に一任する。
…殺すな」
「解りました。死守致します」
クラブは黙って一礼した。
彼は何も聞かない。
忠実に総帥の言葉に従う。
「早く…此処に連れて来てくれ。
手遅れになる前にな」
「はい…」
総帥とクラブの密談は其処で終了した。
彼が何を考えているのか、
その真意を知る者は誰も居ない。
そう、クラブ以外は。
モニターには丈の生体反応と思われるグラフが
一秒ごとに表示されていた。
それを総帥は黙って見つめている。
何か言いたげな、そんな眼差しで。