漣、登場

異世界編・1-2

「あ、起きた?」

無邪気な顔をして
一人の男が部屋に入ってくる。

身長は丈よりも低い。
だが、表情とは別の
何とも言えない雰囲気を
醸し出している。

戦士としての気迫と云うべきか。

「お。紹介する
 コイツは【漣(サザナミ)】。
 俺の仲間でドクター兼任だ」
「ドクター?」

「サイエンティストって呼んでよ。
 僕、人体関係弱いんだから」
「よく言うぜ。
 俺等の怪我を治すの、何処の誰?」
「此処の僕」
「じゃあドクターでも良いだろ?」
「科学者なんですけどね」
「はぁ…」

疾風は深く溜息を吐く。
彼のテンポには
着いて行けないと云った感じだ。

「君が丈君だね。
 情報は疾風から聞いてるよ」
「あ、初めまして…」
「礼儀正しいね。
 うん、二重丸!」

嬉しそうに漣は
優しく丈の頭を撫でてやる。

「状態はどう?
 激しく疲労感や嘔吐感を感じてない?」
「一応、大丈夫です」
「う~ん。取り敢えず診て見ようか」
「何を?」
「君の体の状況。
 どんな能力を秘めてるのか、その他諸々」
「はぁ…」
「立てる? じゃあこっちに来て」

疾風に支えられながら
丈は漣の指し示す部屋に向かった。

* * * * * *

「じゃあこのベッドに横になって」

漣の部屋は機械器具が多く並んでいた。
だが医療機器らしき物は見当たらない。

「服は…?」
「脱がなくて良いよ」
「え?」
「スキャンを掛けるから」
「…スキャン?」

ベッドに横になると頭上に
薄い硝子板のような物がある。

「これで?」
「そう。暫く動かないでね」

楽器を奏でるように軽やかなタッチで
キーボードを叩く漣。

全身スキャンは
それこそ5分も掛からなかった。
収集されたデータが
ホログラフ画面に映し出される。

「成程…」
「何?」
「凄い潜在能力を秘めてるんだね、君」
「?」

興味深そうに画面を見つめる漣。
其処には丈が解読出来ない
文字や記号が並んでいた。

「へぇ~、体は丈夫に出来てるんだね。
 それに適応能力と自己再生能力が高い。
 後は…疾風に似てるのか」

疾風に似ていると言われ、
思わず赤面する丈。
それを見て微笑む疾風。

「飛行能力が備わっていると言う事か」
「あぁ。君とは違うタイプの羽根がね。
 翼…か。まるで天使の様だ」
「この荒れ狂った時代に舞い降りた天使…」

改めて丈を見つめる。
赤面はしているが
彼も真っ直ぐ見つめ返して来た。

「俺、一体…」
「少しずつ理解していけば良い」
「まぁ、出来れば早く
 思い出して欲しいんだけどさ。
 こればかりは外野が焦っても
 仕方が無い事だし」
頭を掻きながら漣が本音を漏らす。

「戦士が圧倒的に少ないんだよね。
 パラサイダーに対抗するには」
「パラサイダー…」

母と妹を奪った憎むべき敵。
丈は右手の拳に力を込めた。
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