パラサイダー

異世界編・1-3

「…」
モニター画面を見つめる一人の男。

時限の歪みを察知したのか、
盛んにサイレンが鳴っている。

「…来たか」

それだけを呟き、パネルを変えた。

荒廃した町。
人の影は見当たらない。
映し出されるのは尖兵のパラサイダーのみ。

「食い果たしたのか?
 全く…単細胞ばかりだ」

男はふと笑みを浮かべた。

「自然の原理を理解していないと見える。
 これでは存続は危ういな…」

黒いロングコートを翻し、
男は大型コンピューターの前に座ると
再び作業を続けた。

「美雨を捜せ」

マイクを通じて伝えられる命令は
酷く冷酷な響きだった。

* * * * * *

「この世界はね、
 厳密に言うと君が居た世界と
 幾つかの相違点が有る」

漣は画面上に
人体データを表示させた。

「僕達の実際年齢は恐らく君より下だ。
 しかし、50年しか経ってないとは言っても
 人体の成長はその3倍ものスピードがある。
 短時間で急激に成長しているんだ」
「お前の居た世界の年齢で行くと
 俺達は20代後半に当てるって訳だが」
「成長スピードが、違う…」
「そう。体だけじゃない。心もだ」
「…早く成長して、早く死を迎える…?」
「普通はそうだけどね」

漣は此処で溜息を一つ吐いた。

「例外も有る。
 一つは僕達、亜種の人類。
 そしてもう一つが…」
「パラサイダー…」
「そう言う事。
 何故かはまだ判明して無いんだけどね」

疾風は胸ポケットから
何かを取り出した。

「煙草?」
「みたいだが、違う。
 一種の食事だ」
「この時代の人間は
 カプセル食が多いんだけどね。
 疾風は色々と五月蝿いから」
「カプセルなんて食った気がしねぇ」
「…薬って感じするね」
「だろ? お前は話が解る」

疾風はそう言うと嬉しそうに
丈を抱き締める。

漣の前でと躊躇するのだが、
当の彼は全く気にしていない。

「あの…?」
「何?」
「気に、ならないんですか? その…」
「抱擁?」
「…はい」
「僕達の人種は
 どうも恋愛を自由に捉えていたらしいからね。
 別に目の前で愛し合って貰っても構わないよ。
 焼餅も妬かないし」
「いや、あの…」
「複雑だね、君って」

漣はそう言うと
興味深そうに笑みを浮かべた。

「疾風は物凄く君を想っているのに」
「…え?」
「漣ッ!!」

此処で突然、疾風が焦り出す。

「話は終わったな。
 じゃあ丈を部屋に戻す。
 彼には休養が必要だ」

強引に丈の腕を取ると
疾風はそのまま部屋を飛び出した。

「…長年待った恋人との再会だもんね」

漣はそう言うと
再び大きな声で笑い出した。
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