長い眠りについていたという意識も無く
受けた傷も完治していた。
「凄いね、この機械。
【セルファー】…だっけ?」
無邪気に微笑みながら服を着る丈に
漣はぎこちなく笑みを交わした。
『おかしいなぁ。
僕の計算だと1ヶ月は完治しない筈なのに…。
どうなってるんだ、丈って?』
丈の怪我の完治や脳に響くノイズ。
彼の体に関しては判らない事だらけだった。
『取り敢えず、様子見だな。
また何か遭ったら大変だ』
漣は一人、丈の健康面を気にしていた。
「もう良いのか?」
心配そうに声を掛ける疾風に
丈は優しく微笑んだ。
「大丈夫…。また、心配掛けた」
「気にするな」
「疾風さん…」
「ん?」
「その…」
肌が恋しかった。
疾風の肌が。
素直にそう、言いたかった。
疾風は全てを察していた。
そのままそっと彼を優しく抱き締める。
「俺…さ」
「何だ?」
「疾風さんの事、好き…みたいだ」
「丈…」
「変だな。男同士なのに…。
こんなに誰か一人の事、
想った事が無い…。
まるで、初恋みたいで…」
いつも以上に饒舌な丈。
そんな彼が愛しくてならない。
「可笑しくは無いさ。
俺達はそう云う考えの生き物なんだ」
「そう…だね」
疾風は彼をそっと抱き上げると
自室へと向かった。
「歌?」
二人はベッドで語らい合っていた。
疾風の部屋にはとにかく不要な物が無い。
その為、テーブルや椅子すら置かれていなかった。
「そう、歌。知ってる?」
「…まぁな。それが?」
煙草を吹かしながら興味深く疾風が聞いてくる。
「聞こえるんだ。
多分俺にだけなんだけど。
異国の言葉で歌われてて
女の子が歌ってるんだ」
「ふ~ん、この世界で【歌】か」
「珍しいの?」
「歌や音楽はこの世界に存在しない。
まぁ…皆それどころじゃねぇからな。
心に余裕が無いから耳を傾けない」
「そうなんだ…」
「でもお前には聞こえる」
「うん…」
「メッセージかもな。
その少女からの」
「メッセージ?」
「あぁ…」
丈は何かを考えてる様だった。
「思い当たる事、有るのか?」
「いや、無いよ…」
「何で俺にその話を?」
「疾風さんなら【歌】を知ってると思ったから」
「まぁ、【過去】に居たからな」
「それも有るけど…」
「何だよ」
「何となく、疾風さんには伝えなきゃって」
「…有り難う」
優しく頬にキスを送る。
擽ったそうに丈は笑った。
「ねぇ…?」
「ん?」
「もう暫く…このままでも良いかな?」
「あぁ。俺は大歓迎だ」
「それじゃ遠慮無く…」
丈は疾風の胸に顔を埋め、
安らかな表情を浮かべた。