復 活

異世界編・1-20

5日ぶりに丈は意識を取り戻した。
長い眠りについていたという意識も無く
受けた傷も完治していた。

「凄いね、この機械。
 【セルファー】…だっけ?」

無邪気に微笑みながら服を着る丈に
漣はぎこちなく笑みを交わした。

『おかしいなぁ。
 僕の計算だと1ヶ月は完治しない筈なのに…。
 どうなってるんだ、丈って?』

丈の怪我の完治や脳に響くノイズ。
彼の体に関しては判らない事だらけだった。

『取り敢えず、様子見だな。
 また何か遭ったら大変だ』

漣は一人、丈の健康面を気にしていた。

* * * * * *

「もう良いのか?」

心配そうに声を掛ける疾風に
丈は優しく微笑んだ。

「大丈夫…。また、心配掛けた」
「気にするな」
「疾風さん…」
「ん?」
「その…」

肌が恋しかった。
疾風の肌が。
素直にそう、言いたかった。

疾風は全てを察していた。
そのままそっと彼を優しく抱き締める。

「俺…さ」
「何だ?」
「疾風さんの事、好き…みたいだ」
「丈…」
「変だな。男同士なのに…。
 こんなに誰か一人の事、
 想った事が無い…。
 まるで、初恋みたいで…」

いつも以上に饒舌な丈。
そんな彼が愛しくてならない。

「可笑しくは無いさ。
 俺達はそう云う考えの生き物なんだ」
「そう…だね」

疾風は彼をそっと抱き上げると
自室へと向かった。

* * * * * *

「歌?」

二人はベッドで語らい合っていた。
疾風の部屋にはとにかく不要な物が無い。
その為、テーブルや椅子すら置かれていなかった。

「そう、歌。知ってる?」
「…まぁな。それが?」

煙草を吹かしながら興味深く疾風が聞いてくる。

「聞こえるんだ。
 多分俺にだけなんだけど。
 異国の言葉で歌われてて
 女の子が歌ってるんだ」
「ふ~ん、この世界で【歌】か」
「珍しいの?」
「歌や音楽はこの世界に存在しない。
 まぁ…皆それどころじゃねぇからな。
 心に余裕が無いから耳を傾けない」
「そうなんだ…」

「でもお前には聞こえる」
「うん…」

「メッセージかもな。
 その少女からの」
「メッセージ?」
「あぁ…」

丈は何かを考えてる様だった。

「思い当たる事、有るのか?」
「いや、無いよ…」
「何で俺にその話を?」
「疾風さんなら【歌】を知ってると思ったから」
「まぁ、【過去】に居たからな」
「それも有るけど…」
「何だよ」

「何となく、疾風さんには伝えなきゃって」
「…有り難う」

優しく頬にキスを送る。
擽ったそうに丈は笑った。

「ねぇ…?」
「ん?」
「もう暫く…このままでも良いかな?」
「あぁ。俺は大歓迎だ」
「それじゃ遠慮無く…」

丈は疾風の胸に顔を埋め、
安らかな表情を浮かべた。
Home Index ←Back Next→