疾風の問いに、丈は黙って頷いた。
「あぁ。俺、この世界の事知らないし。
一度見てみたいんだ」
「それは構わないが…」
「勿論一人でなんて言わない。
その…」
「解ってる。
俺がついててやる」
「御免」
「言うな」
優しく頭を押さえ込み、疾風は微笑んだ。
「行くか」
「うん」
二人はそう言うと静かに外界へと向かった。
「セイリュウの反応です」
クラブの報告に、総帥は頷いた。
「スザクは」
「一緒ですね」
「やはりそうか」
「どうしますか?」
「手下を数名連れて行け。
弾丸に強いタイプをだ」
「…セイリュウ封じですか」
「そうだ。スザクを手に入れろ」
「セイリュウは?」
「ふ…。今は興味ない。
お前はどうだ、クラブ?」
「殺り合うにはまだ早いですね」
「だろう。なら、捨て置け」
「了解しました」
クラブは意見に賛同して貰えて嬉しいのか、
サングラスを外した。
其処にある筈の【目】が無い。
「そんなに嬉しいか、クラブ?」
「嬉しいですね。
貴方の意思に副える事は
我が最大の喜び」
「世辞を言わんお前を
私も気に入ってるよ、クラブ」
クラブは満足そうに微笑み、
再びサングラスを掛ける。
「この醜い顔を晒せるのは
貴方にだけです、総帥」
深々と一礼し、
クラブは部屋を後にした。
「…久々に本気だな、アレも」
総帥はそう言うと
モニターに映る丈の横顔を見つめた。
「丈は?」
恵一は異変に気付き、
轟と漣に所在を聞いた。
「確か疾風と一緒に居た筈ですが…」
「でも疾風も居ないよね?」
「まさか…外じゃあるまいな」
「外へ? 無茶なっ?!」
突然、漣が素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだよ、一体?」
「丈の体はまだ完治してないんだよ?
それに外は空気も悪いし…。
彼、脳に欠陥が有るって説明したろ?」
「あぁ…。でも…」
「外は悪質なノイズが山程流れてるんだ!
見えないだけに厄介なんだよっ!!」
「お。落ち着け…漣……」
「いや、問題はそうじゃない」
「え?」
「パラサイダーの動きがおかしい。
丈にまだ実戦は早い。
変な騒ぎに巻き込まれない様にと
釘を指すつもりだったんだが…」
「団長…」
「…まぁ、疾風が一緒なら大丈夫だろう。
漣、丈の武器の方は?」
「七割方完成してます。
テストしてみたいんですが、
丈があの状態じゃ…」
「…そうか。済まないな」
恵一は優しく漣の髪を撫でてやる。
不安げな表情が一瞬だけ和らいだ。
「何事も無ければ良いんですがね…」
事の重大さを認識してか、
轟も重い口を開いた。